謀と惹かれ逢えば偶然の下に

□Coincidence.20
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川沿いの、うらびれた雑居ビルやシャッターの降りた小さな店が並ぶなかに、ひとつだけ真っ白な建物。表向きはただの企業だけど、ここに、依頼主がいる。ティオも、同じところにいる。

ひとつだけ息を吸い込んで、表のインターホンなんて無視をして。ドアというドアを、全部、蹴り破って。階段で駆け上がった最上階のその場所に、いた。真っ白なスーツの男と、ティオが、いた。

「五分前、ですか。もう少し早く来て頂きたかったですね」
「…っ、はっ…はあ…、ティオを、離して…!」
「ええ。もちろん、お返ししますよ。話が終われば、すぐにでも」

コツン、と足音を鳴らして振り返ったその男は、現状には不釣り合いな笑みを携えて、穏やかな口調で続けた。ティオに、銃口を当てて、カチリと、シリンダーを回して。

「では、報告をお願いします。幻影旅団各団員の性格及び特徴、能力について、調べあげた全てをお話下さい」

口元にお手本のような笑みが貼り付いる、その男は、声の出せないティオに銃口をさらに強く押し当てた。態度で表すよりもずっと威圧的で効果的な行為に、心臓が冷や汗を立てて早鐘を鳴らし続けていた。

「前回の報告直後、念にかかってちょうど一月、別人格になっていてその間の記憶が欠落してる。報告をするとしても、前回からの進展はまるでない」
「いいえ、あるはずですよ」

重要な報告が、そう言った瞬間、男から笑みが消えた。ティオを拳銃で殴り付けて、頭から流れる血がポタリと落ちてから、男はもう一度銃口を押し当てた。

「ティオ…!やめて…やめてえ…っ」
「あなたが素直に話して下されば、こんなことはしなくて済むんです。どうかこれ以上お互いに傷つかないために、賢明な判断をお願いします」

知ってるんだ。知ってて、この男は、私に言わせようとしてる。きっと依頼されてからずっと、私は、この男の監視下にあったんだ。全て、筒抜けだったんだ。

「……幻影旅団、団長と恋人関係になることに成功。…情報を得られるのは、時間の問題だと思われる」
「分かりました。素晴らしい成果と報告を、ありがとうございます。引き続き、調査をお願いします。ああ、それから…これは、お返しします」

これ、と一瞥して、男はティオを縛り付けたイスから解放した。音だけは聞こえているはずのティオは、声を、出ない声で必死に、私に訴えていた。すまない、と。何度も。

どうして、こんなことになってしまったんだろう。やっと、好きになれた人だったのに。何も考えずに、好きになってしまったのに。

この男に、私は逆らえない。もう、バレてしまってる。ティオを、使われてしまったら、私には抵抗する術なんて、ないことを。
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