tesoro mio

□tesoro mio15
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明け方まで懐かしさに浸っておしゃべりをしていた私は、ズシに数回起こされても起きれなかった。ワインがまだほのかに残っているような感覚の中なんとか体を起こして、ズシと部屋を出たときにはもう8時になっていた。

「わあ、ズシごめん!本当にごめん!」
「大丈夫っすよ。気にしないで下さい」

なんだか私のが子どもみたい。ズシは本当にしっかりしてる…。



「遅かったね。○○が寝坊したのかな?」
「うぅ…ごめんなさい…」

いつも通り寝癖をつけたお兄ちゃんにとにかく謝ってリビングに入って、テーブルの上の果物だけの朝食を見て腰を抜かしそうになった。

「…お兄ちゃん」
「ん?」
「怒るよ!ちゃんと食べなきゃだめなんだから!」

早く起きなきゃだめだったんだ…ちょっと考えれば分かることなのに…私のばか。
冷蔵庫の中を許可も取らずに覗いてみると、みかんがごろごろといちごが2パック、そしてなぜか大量のじゃがいもが入っていた。

「またよく分からないことになってるし…このじゃがいもどうしたの?」
「ああ、宿に長くいるからってもらってね。時期だから甘くておいしいらしいんだけど」
「…お兄ちゃんはズシと一緒にパン買ってきて、じゃがいもで何か作っておくから」

きょとんとするのはかわいいけど。もうちょっとそのきょとん顔見てたいけど。
とにかく二人を追い出してじゃがいもに取りかかった。前と同じで調味料が手つかずなのは良いのか悪いのか…。

二人が帰ってきたときに、ちょうどポタージュスープが出来上がっていた。ローズマリーが少し残っていたからハーブ焼きにすると、部屋の中はたちまちローズマリーの香になった。

「じゃがいもしかないけど…少しは普通のごはんに近づいたね!」
「すごくおいしそうっす!」
「いい匂いだね。ありがとう、○○」

何気なく頭に置かれた華奢なのに大きな手。深い意味なんて何もない、妹をほめる兄としての行為。
こんなささいなことで固まってしまった私に気づかなかったのか、お兄ちゃんはそのまま髪をすくって唇で触れた。心臓が大きな音をたてて冷や汗が流れる。混乱してる頭に浮かんだのは、やさしすぎるキルアだった。

何か理由をつけてやめてもらおうとしたときに離されて、いきおいよくお兄ちゃんはその手を引いた。

「…いただこうか」

午前中いっぱい、私とお兄ちゃんはぎこちなく接していて、ズシが午後は用があるからと出ていってしまってからようやくきちんと顔を合わせてお茶を飲んだ。
光がふりそそぐ窓辺のテーブルは愛らしくて、私たちがお互いにつけているラピスがきらきらと輝いていた。

離れてからの半年間、お兄ちゃんはどんなふうに過ごしてきたんだろう。この窓辺は明るすぎて、あらゆることが綺麗に見えてしまう。そして悲しいことや苦しいことを、消してしまう。

「お兄ちゃん」
「○○」

重なった声。私の声は、きっと震えていた。
反射的に紅茶を口に含むと、向かいからはくすりと小さな笑い声。

「キルア君と付き合ってるんだね」

静かで、やさしくて穏やかな声だった。思わず目を向けた先に。
あの日の笑みはなかった。

受け皿にカップを置いて返事をした私も、暗い影は欠片もない笑顔を返せた。

明るすぎる窓辺には、悲しみも苦しみも存在しない。そこにあるのは、やさしくて穏やかな時間だけだった。
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