tesoro mio

□tesoro mio13
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朝起きたとき腕枕をされているのは、二度寝したくなるくらい温かくて何もかもが朝の光で綺麗に見えて、そしてそれはすごく久しぶりの感覚だった。

最後に腕枕をしてもらったのは本当にわずかな時間で、その感覚を少しも忘れたくないと、私はそのとき目を閉じて確かめていた。でも、今思い出そうとしても、もうぼんやりとしかよみがえってこない。胸に小さな穴が空いてるような、喪失感。

テーブルの上に、チェーンに通されたラピスとピンクパールのイヤリング。朝の光の中で、ラピスは冷たく悲しげに、ピンクパールは愛らしく光をうけている。

「キルア…怒るかな…」
「もう怒ってるけどな」

イスが派手な音を立てて倒れて、私は腕を胸の前でクロスして防御するように立ち尽くした。その無音はやめていただきたい。ついでに気配消すのもやめていただきたい。

「お、おはよ…」
「ああ、で?俺は何に怒るわけ?」

なにこれ!朝から勘弁してよ!大体なんでもうすでに怒ってるの。

「さ、さあ…なんだろーねー…?」
「早く言わねーとマジで怒るぞ」

反射的に手の下に隠したアクセサリーを、確かにこの状況の中で避難させるのは私には無理そう。
私との距離を縮めたキルアが、その手の甲に触れた。

「何隠してるわけ?」

至近距離で射抜くような瞳で見つめられて、そんな場合じゃないのにうるさく胸がなってしまう。
それにしてもなんでキルアはこんなに勘が鋭いの…普通女の方が鋭いはずなんだけど。何かがおかしい。

手をずらせば、さっきと何も変わらないラピスとパールが、光の中輝いていて。ちらりと目を向けたキルアは、思ってもみないものだったのか何も言わない。

「キルア、私…」

指輪を捨ててしまうのは、どうしても出来ないと私の心が必死に訴えていた。何度も考えた。キルアの腕の中で、キルアの体温を感じて、考えた。キルアを傷つけることになっても、それでも私には捨てるという選択肢は選べなかった。

「指輪を、ね…捨てられない…みたいで…。首に、つけててもいい…?絶対…いつか、手放すから…」

自分勝手で残酷で、自分すら傷つけるかもしれないその選択は、どう考えても賢明じゃない。キルアを傷つけたくなんかないけど、でもまだ、どうしても譲れない。

「おまえばかだろ」
「え…?」

ため息を吐きながらイスにだるそうにかけたキルアは、本当にあきれたと言わんばかりの態度で。私を見上げてくる瞳だけ、やさしい。

「大事な兄貴からもらった大切なものだろ。それを捨てられるようなおまえなら、好きになってねーよ」

冷たい金属の音をならしながら、キルアはラピスを首につけてくれた。ひんやりとした感触は、すぐに体温に馴染んで消えた。
朝の光なんかなくても、キルアは私には直視出来ないくらいまぶしすぎる。助けられてばかりで、キルアがいてくれなかったら、私はきっとひどく暗い日々を送っていた。

耳にピンクパールをつけてキルアにすり寄ると抱きしめてくれる、そんな甘すぎる時間は静かで穏やかで。いつまでもこうしていたい。

「…あれ?キルア怒ってたんじゃなかったっけ?」
「もういい」

もういいってなんだ。キルアってよく分からないことが多い。けど。

「大好き…キルアが大好き…」
「…そんなに好きなら俺が起きるまでベッドにいろよ」
「…ん?」
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