tesoro mio

□tesoro mio12
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試験前日の今日、キリコさんたちに試験会場の街まで送ってもらった私たちは、とりあえず駅前のホテルに空室があるか確認しに来ていた。フロントに行こうと足を進めると、売店にチョコロボ君が売られているのをキルアは目ざとく見つけて行ってしまったから私がチェックインを済ませることにした。

「申し訳ございません、ツインは満室でございまして…」
「えっと…ダブルは空いてますか?」

今日の今日だからやっぱり希望通りにはいかないか。シングル二部屋なんて寂しいし、キルアなら同じ部屋でもいいよね。毎日岩山で隣で寝てたし。
運良くダブルは空いていて、鍵を受け取ったところでキルアがチョコロボ君を三個抱えて戻ってきた。
こうやって見るとほんとただの子ども。

「部屋取れたよ、よかったねー」
「サンキュ、早く行こうぜ」

エレベーターに乗ったところでキルアが鍵くれと言ってきて、よく分からないけど渡した。私が持ってるとなくなるとか思ってるんじゃないよね…。

部屋の前まで来てキルアが鍵を開けたところで、じゃあ飯のときになと言ってドアを閉められそうになって慌てて取っ手をつかんだ。

「ちょ、ちょっと!なんで部屋に入れてくれないの?」
「は?何言ってんだよ、おまえも自分の部屋行けよ」
「えっ?私の部屋って、ここだけど」
「……一部屋しか取ってねーのか?」
「あたり前じゃん。別々なんて寂しいもん」

まったくキルアは、とぶつぶつ言いながら私は部屋に入った。中は思ったより広くて綺麗で、窓からひとしきり街並みを眺めてからお風呂にお湯をためにいった。備え付けの入浴剤は泡ぶろで、私はとても気分が良くなってそれも入れた。浴室から部屋に戻るとチョコロボ君が封を閉じられたままテーブルに三個置いてあって、おかしいなと思いながらキルアを探そうとしたらたぶん寝室だと思われるところから出てきた。

「おい、どういうつもりだよ」
「え?どうしたの?」

なんにも怒る要素がないのになんで怒ってるんだ、キルアは。部屋だって至って普通だし眺めもいいしお風呂だって素敵なのに。

「なんでツインじゃねーんだよ」
「ああ、空いてなかったの!ダブルでもいいでしょ?私寝相悪くないし、平気だよ安心して」

キルアの不機嫌の理由が分かって安心した私は冷蔵庫から炭酸水を出して一口飲んだ。すごく冷えててそれにも感心した。ここのホテルはなかなかいいみたい。よかったよかった。

「チョコロボ君食べないのー?あ、でもそろそろ夕飯の時間だもんね。なにたべようか?キルアは何がいー?」

一向に返事が返ってこなくて振り返ると、史上最悪と思われるほど不機嫌なキルアが目に入って、私は思わずびくついた。

「ど、どしたの…なんか…あったの…?」

殺気が出てないだけまだましなのかもしれないけど、そういう問題でもない。怖いものは怖いし嫌なものは嫌だ。一体キルアに何が起こったのか、私が何かしたのかを必死に頭を働かせた。

「…フロント行ってくる」
「えっ、は、はい…」

ドアはすさまじく乱暴に閉められて、壊れそうなほど派手な音がなった。よく分からないままだけど、私じゃなくフロントに文句を言いに行ったところを見るにホテル側の問題だったらしい。ほっと胸をなでおろして、私は泡ぶろに心踊らせて浴室に向かった。



なんていうか…機嫌悪くなるのは勝手だけどさ…猛獣がいるような錯覚を覚えるほどの不機嫌オーラはほんと勘弁してほしい。一人で静かに不機嫌にしててよ、頼むから。
浴室から部屋に出るためのドアを開けるのをためらうほどそれはひどかった。ドアを開けた瞬間なにか物でも飛んできそうな雰囲気が、ドアを挟んでいるにも関わらずこちら側まで届いていた。

意を決して開けると、キルアは窓際のイスにかけていた。チョコロボ君にまだ手がつけられていないから、状況はかなり悪いらしい。
私は静かに冷蔵庫からさっきの飲みかけの炭酸水を出して、ゆっくり飲みきった。でもダメだった。キルアの機嫌はほんの少しも変わらなかった。

「えーっと…さ、先にお風呂入ってごめんね…?」
「…ああ」

返事してくれた…!絶対完璧無視だと思ったのに!

「ごはん、食べ行く?お腹すいたよね!」
「…そうだな」

がたっとイスから立ち上がって、キルアは突然、私には突然に思えたんだけど、私の手を取ってやさしく微笑んだ。
もちろん、私の心臓はうるさいくらいばくばく暴れ始めた。だってこんなの反則だよ。いつも冷たいのに、こんなに気持ちのこもった笑顔を向けてくれるなんて。

「何食いたい?」
「……え?あ、ごはんね!」

何がいいかな、なんて普通に言ってみたけど、全然何が食べたいのかなんて分からなかった。さっきまで不機嫌だったのはなんだったのかと不思議に思うくらい、キルアは急にすごくやさしくなった。手を取るのも、話しかける声も。

結局何も思いつかなかった私はデザートが食べられればどこでもいいと言って、キルアは分かったと小さくまた微笑んで、まぶたにキスを落としてきた。ばかみたいだけど、そんなことで私は真っ赤になって、うつむきながらキルアに手を引かれて部屋を出た。
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