tesoro mio

□tesoro mio1
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手の中にあるアンティーク人形とちょっと見つめあってから値札に適当な値段を書く。お人形さんて目があうとちょっと怖いよね…、というか私は今まさに怖い。これが価値のあるものじゃなかったら絶対ほしくない。…やっぱり競り落とすのやめようかな。いやでも!これがすごいお値打ちものだったら手に入れたいし…。わあん!どうしよう!


放浪しながらたどり着いた街はヨークシンというところだった。元々、隣の隣の街の世界一の透明度らしい海に遊びに来てたんだけど、なんでも世界最大のオークションがあるとかいうポスターやらなにやらがそこら中に貼ってあって、ただの好奇心でとりあえず来たらこれが意外と楽しい!
今いるのは一般人が参加できるすごく庶民的な市で、本当になんでもかんでもある。


「お嬢ちゃん…、そんなにほしいのかい?そのアンティーク人形」

売り主がちょっと可哀想な目で私を見ていて、これはもしやお金がないけどほしい、みたいな感じに見られてるパターンらしい。どうしよう!怖いんだけど、やっぱり手に入れなきゃだめだよね!

「おじさん!私、すっごくこのお人形ほしいんです!いくらなら買い取らせてもらえますか?」
「そうだねえ…」

おじさんが、じゃあ500ジェニーでいいよと言って、私が心の中で飛びはねて喜んでいるときだった。

「○○…!?」

名前を呼ばれて反射的に振り向いてしまう。目があった瞬間、私はアンティーク人形を放り投げて一目散に逃げた。

なんでいるの!?



お兄ちゃんと別れたあと、私はゴンにもキルアにも、もちろんズシにも何も言わずに天空闘技場を出た。荷物は全部クロークに預けて、適当なホテルを取ってから送ってもらうようにしていたから自分の部屋に戻る必要もなかった。もしゴンとキルアがあの部屋を訪れていたら、きっと悲しませたと思う。いや、きっと悲しんでくれたはずで、でも私は会いたくなかった。ゴンにもキルアにもズシにも会いたくなかった。

お兄ちゃんを少しでも思い出させる人に会いたくなかった。お兄ちゃんのことを聞かれたり、お兄ちゃんの話を聞かされるのが怖かった。あの日、精一杯の気持ちで別れたのに、何度も何度も戻りたくなった。広すぎるベッドでひとり寝ているときも、紅茶を飲んでいるときも、夜星を見ながら散歩をしているときも、あらゆるときにふいに感情が揺れて、お兄ちゃんを求めていた。
なのに、指輪だけはどうしても外せなかった。一番お兄ちゃんを思い出させるものなのに、何をしても目に入るのに。

人にぶつかりながらもがむしゃらに走って、私は過去から逃げる。
思い出したくない。…本当はお兄ちゃんとの日々ばかり思い出してる。
話を聞きたくない。…本当はお兄ちゃんのことを知りたくてしょうがない。
何も聞かれたくない。…本当は誰かに苦しい気持ちを聞いてほしい。

ぱしっと強く手をつかまれて、走っていた体は後ろに引かれて倒れそうになる。それでもまだ手を振り払らおうとすると、後ろから強く抱きしめられた。

「や…離して…!」
「離さない」

ばたばたと暴れる私はなだめるように抱きしめられて、ゆっくりと吐き出された息が首にかかる。

「心配した。…会いたかった」

心配なんて、しないでよ。勝手にいなくなったのに、何にも言わなかったのに、心配なんて、しないでよ。

「…ふぇ…きるあ…」
「泣くなよ。…この泣き虫」
「泣き虫じゃな…っいたいいたい!」

キルアは加減してるんだろうけど、ほっぺが取れそうなぐらい痛い!どうやらでこぴんからほっぺをつねるのに移行したらしい。

「いたい…!まだいたい…」
「散々心配させたんだから、そんぐらい我慢しろよ」

少し不機嫌な表情にとがった口。本当にキルアだ。また背が伸びた気がする。私なんか1ミリも伸びてないのに…じゃなくて!

「キルア…なんでこんなとこにいるの?」
「おまえもな」
「うっ…私はただ遊びに来ただけで…」
「俺はゴンが…ってやべ!忘れてた!行くぞ!」
「えっ?」

勝手に手を引かれてずるずると連れていかれる。どうでもいいけど、走るのはやすぎ!そりゃ追いつかれるよ…。
私が遅いから必然的に手を引っ張られてるのに、手首をつかむ手がすごくやさしくて、私はキルアのうしろでひとりくすくす笑った。なに笑ってんだ、気色わりーって言われたのは聞こえなかったことにした。まる。
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