my dear
□my dear
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○○の部屋の前に立って、数分が過ぎようとしていた。このうんざりした顔をなんとかしなければと指で口角を上げてみる。全く意味をなさないその行為に深くため息をついた。
(なんで俺がこんなことしなきゃいけねーんだ…)
はぁともう一度ため息をついて、ノックをしようと手をあげたときにドアが開いた。
「わぁ!ってキルアじゃん!どうしたの?」
昨日の泣き顔なんて微塵も感じさせない、いつも通りのバカみたいにあかるい声と笑顔の○○が部屋から出てくる。
(ぜってー行く意味ねー)
うんざりした表情にならないように気をつける。
「キルア?」
「…ん、ああ、おまえの兄貴にちょっと用があっから、一緒に行こうぜ」
「ほんと!?」
わぁいと飛びはねて喜ぶ○○を見る。もしかしたら、ひとりで行くのはいやだったのかもしれないと喜び様を見て思った。同時に、女っていうのはこういうものなのかとも思う。
天空闘技場を出て数分のところにある宿へ向かう。○○の歩くスピードが遅くて、部屋の前の廊下でもうすでに置いていきそうになる。隣に自分より少しだけ小さい○○がいなくて、振り返ると、嬉しそうにトコトコ駆け寄ってくる。
「おまえって、ほんとトロいのな」
「えー!?トロくないもん!」
キルアがはやいの!と楽しそうに文句を言う○○に合わせて歩く。
そういえばあそこの通りのケーキ屋さんがねと脈絡なく次から次へと色んな話がでてくる。そのたびに適当に相づちをうち、どうしてこう話がとぶんだろうとあきれたように思う。
いつもより数段遅く歩いているのに、あっという間に宿について少し驚いた。こいつがずっとしゃべり続けてるから、時間の感覚がおかしくなったんだと決めつけた。
宿へ入ろうとしたところで、袖口を軽くつかまれる。不思議に思って○○を見ると、泣きそうな顔をしてうつむいている。一瞬ぎょっとしたが、どんな理由か知らないがやっぱりウイングに会うのがつらいんだろう。
「…おい。行くぞ。」
びくっと体をふるわせて、うるんだ目で見上げられる。不覚にもどきっとする。
「ごめん…ちょっとだけ待って…」
どう考えてもちょっとですむわけがない。どうするかと頭を悩ます。理由が分からないのだから、なぐさめようがない。とにかく連れて行こうと思い、○○の手をとり歩き出す。戸惑いながらもついてくるので、少し安心する。部屋の前につき、ちらと見ると表情は固いがいくぶん落ち着いたように見えた。一拍おいてから、ノックをした。