my dear

□my dear
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「久しぶりだね、○○」
「おにいちゃ…」

コツコツと音をひびかせて、お兄ちゃんがこちらにくる。驚きでうまく声が出ないし、体も動かない。あの日以来のお兄ちゃんは、ほとんど変わっていないように見えた。

「ゴン君、キルア君、少し席を外してくれませんか?」

私の方を見たまま、二人には一瞥もせずにお兄ちゃんが言う。お兄ちゃんらしくない。
二人は静かに、でもあっという間に出ていった。

「…お茶を入れるから、そこにかけていてくれるかな」

指差された椅子にゆっくり座る。なんだか現実味がなくて、目の前にお兄ちゃんがいることが信じられない。とにかく落ち着かなきゃと混乱している頭を軽く振る。お茶を入れているお兄ちゃんを後から見る。こうしてよく見ると、やっぱり、ほんの少しだけど年月の経過を感じる。自分が成長したからだろう、お兄ちゃんの背中は前より小さく見える。でも、お兄ちゃんの雰囲気。昔と変わらない、安心感を与えてくれる。
そこでお茶を持ってお兄ちゃんがこちらを振り向く。ドクンと心臓が跳ねた。私と目があって、優しい笑顔を向けてくれる。頭がくらくらする。
どうしてこんなに―――


温かい紅茶が目の前に置かれる。懐かしい香りがする。向かいにお兄ちゃんが座って、紅茶を一口含む。昔と何も変わらない雰囲気に、別々に生きてきた日々があるなんて嘘みたいに思えた。ふとお兄ちゃんが顔をあげて、目があって、慌てて紅茶に手をかけて、口に含んだ。

「!…これ、ストロベリーティー…」

家にいた頃、いつも飲んでいたお気に入りのお茶。私だけがこのお茶を好んで飲んでいた。お兄ちゃんが覚えていてくれたことに思わず涙が出そうになる。

「ゴン君とキルア君から、天空闘技場の190階にいると聞いたよ。ずいぶん頑張っているようだね」

ひとつ小さく深呼吸をする。

「うん…今日200階に昇階したんだ」

そうと優しく返される。少し落ち着いてきて、聞きたいことが頭のなかを渦巻いて暴れる。
どうして急に出ていったの?
今までなにをしてたの?
どうしてあのとき…

「○○に念を教えてほしいと、ゴン君とキルア君に頼まれたんだが、○○はどうかな?」

質問の意味が理解できず、ただ見つめ返す。まだ頭の中がぐるぐるしている。

「僕に念を教わるのは、いやかな?」

優しくて、悲しそうな笑み。
あの日がフラッシュバックする。
なんとか小さく首を横に振る。

「お兄ちゃんに…教えてほしい」
「…分かった。明日から始めよう。ズシという弟子が一緒だ」
「うん、分かった」

頭の混乱にたえられなくて、口をひらいた。

「お兄ちゃんっどうして…」

そこで、お兄ちゃんの指で優しく口を塞がれた。親指で唇をなぞられる。

「今は言えない。…ごめん」

お兄ちゃんが立ち上がって窓辺へ行くので、椅子をガタンとならして駆け寄り背中に抱きつく。 お兄ちゃんが体をこわばらせたのが分かった。さっき小さく思った背中は広くて温かかった。

「もう…急にいなくなったりしない?」

最後の方はほとんど泣き声だった。
自分の声に余計寂しくなって、腕に力をくわえた。

「ずっと、お兄ちゃんを探してたの…」

何も言ってもらえなくて、腕の力がどんどん強くなる。

「わたし、お兄ちゃんに…会いたくてっ…会いたくて…」

感情をおさえきれなくて、涙が流れた。
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