龍が如く 短編

□運命的
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 夜も更ける午前0時。
眠ることを知らない神室町は、朝とは違った怪しい空気を漂わせている。
田中シンジという男もこの街の空気に飲まれた一人で、今宵も風俗にソープ、異性と接する場所という場所を転々としていた。

 手持ちの金が尽きたところで、シンジは暗い通りをふらついていた。
一週間程前に降った雪がまだ道の端に残っているのを目の端でぼんやりと捉えながら、特に目的もなく足を前に動かす。



 小さな公園の前まで来たとき、シンジはあるものを再び目の端で捉えた。
気にしない振りをしたが、やはり気になって顔ごとそこに視線を向ける。
そして思わず目を見張った。
 公園のベンチに寝そべっていたのがホームレスでも酔いつぶれでもなく、一人の若い女だったということに。





 こんな夜更けに。しかも神室町のような闇の蔓延(はびこ)る街で、女がたった一人でベンチで寝ているというのだ。
恐る恐る近づいてみると、女はスーツ姿の、どう見てもそちら側で稼いでいない人間だった。



 「お……おい」


 見たところ衣服が乱れている様子は無く、男に何かされた痕跡は無さそうだ。
よくこんな場所で寝ていてなにもされなかったな、と驚きつつ、警戒心のかけらもない女の寝顔を見ながらシンジは思った。



 「おい、起きろ」



 何度か揺すり声をかけると、女は短く唸り、重たげに目を開けた。



 「……んー?」


 「こんな所で寝てると危ねぇぞ。」


 無理矢理知らない女を襲うような趣味はないため、目覚ましとばかりに女の頬を軽く叩いた。
ペチ、という音と共に、女は間の抜けた声を発した。



 「い……ったた」


 「起きたか?」



 すると女は短く返事をし、ぼさぼさの肩まである髪を直している。
シンジは一度立ち上がり、自販機でミネラルウォーターを買ってから再び女の座るベンチへ戻ってきた。
女は目が覚めてきたのか、少し戸惑った様子でシンジを見た。その瞳には初めて警戒心が感じられた。



 「……何もしねぇよ。ほら」


 ミネラルウォーターを女に渡すと、女は少し不思議そうに首を傾げた。


 「飲めよ。酔いが覚める」


 そういうと、女は少し間を置いて恐る恐る口を開いた。


 「あのぅ……酔って、ないです」


 「……は?」


 それを聞いてシンジは再び目を見張った。



 「酔ってないなら、なんでこんなところで寝てんだよ?ヤバいって思うだろ、普通」


 「うーん、仕事で異常な程疲れてましたから……寝ちゃいました」


 「『寝ちゃいました』って……」


 一歩間違えれば大惨事だったであろうことにも、女は『うっかりでした』とでも言いたげに笑っている。
やはりこの街はまともな奴がいないな、とつくづく思ったシンジだった。




*



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