龍が如く 短編
□赤い首輪
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「やっと捕まえた……仔猫ちゃん」
細い路地の壁に強く押し付けられ、体が震えた。本能は『逃げろ』と叫ぶけれど、まるで身動きがとれない。
「どうして逃げようなんて考えたのよ?無駄だって分かってんのに」
とんだ馬鹿ネコだな、と彼は私を嘲笑った。
佐川 司──彼と出逢ってから、私の人生は狂ってしまった。
一瞬でも彼のことを好きだと思ってしまったのがいけなかった。
彼に好かれてしまったのが全ての運の尽きだった。
「一緒にいたあの男、誰なんだよ」
「あ…あれは仕事の同僚で……」
「仕事仲間といる時は随分楽しそうだなぁ、仔猫ちゃんよ」
彼の目の奥に、嫉妬の念が渦巻く。
「あんな笑顔向けられて、嬉しくない男なんていないよな?」
彼は幼い子供にものを教える様に言った。こういう気分の時が、一番何をしでかすか分からなくて恐ろしいと思う。
「そんなに怖がらないでよ、
俺にも悪い所はあったんだから!
愛猫に『首輪』もはめてなかったんだから、さ。」
その言葉を聞いた途端、背筋が一気に凍りついた。
あわてて視線を外し、両側に押さえつけられた腕をほどこうとしたけれど、
やっぱり何をしても効果は無かった。逆に彼の可虐心に火を付けてしまったようだった。
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