龍が如く 短編
□しっとしん
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「馬場ちゃん馬場ちゃんっ」
春子が笑顔でこちらを見た。誰の目から見ても分かるような、嬉しそうな笑顔だ。
「昨日私ね、とっても美味しいラーメン屋さん見つけちゃった」
「へぇ、ラーメン屋……っすか?」
くわえていた煙草の火を消しながら尋ねると、春子はこくりと頷いた。
「昨日冴島さんが夕飯に、って連れていってくれたの。あそこのチャーハン、美味しかったなぁ」
「ふぅん。 え、……冴島…さん、?」
おいしいラーメン屋に行ったのにチャーハンの感想か、と心の中で突っ込んでいたものだから、聞き逃すかと思った。
「どうしてそこで冴島さんが……」
訝しげに春子を見つめると、春子はケロッとした態度で言った。
「偶然会ったのよ。お金持って無さそうだったのに、奢ってもらっちゃって」
春子は何故か冴島さんを「貧乏な人」というイメージで捉えているようだ。それはそうと、えへへと笑う春子の顔に嘘は無いみたいだったが、春子に想いを寄せる男である以上冴島さんに嫉妬してしまう。
「…馬場ちゃん?」
余程険しい顔をしていたのか、少しビクついた表情を浮かばせた春子が俺の顔を覗き込んだ。前より大人びたか?と、その時の俺は感じた。嫉妬していることに気付かれまいと首を振る。
「いや、なんでもないです」
「ふぅん…… あ、そうそう、その事なんだけどね」
またしても明るい表情に戻った春子は言った。
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