ダレン&デモナタ 短編
□美女と野獣
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「アロマちゃぁん、こっちで一緒に飲もうぜ」
娯楽の間では、酔って陽気になっている若いバンパイアが歌うように言った。
「なっ…よせよ馬鹿!」
一緒に飲んでいた相方が青くなりながら注意するが、若いバンパイアはへらへらと笑って気にも止めない。アロマは申し訳無さそうに顔をしかめる。
「あの… …ごめんなさい」
「別にいいじゃねぇかよ、娯楽の間なんだから!」
「そうだな、だが酒場でもない」
後ろから、低い声が地鳴りの様に響いた。心臓が潰れてしまいそうな程の威圧で青年は一瞬で酔いから覚め、青白い顔からは血の気が完全に引いていく。
「ば……バネズ…」
次の瞬間、その若いバンパイアは横に一撃、強烈なパンチを食らって倒れた。
「だから…言っただろ…」
もう一人のバンパイアは、ノックアウト状態の相方を見て途方にくれている。予想以上の威力に驚きを隠せていない。
「まぁ…! いくらなんでも、今のはやり過ぎよ」
床にひっくり返っている青年を起こしながら、アロマは顔をしかめて言った。
「い、いや…なんていうかあれだ、盗られそうになったら、黙っていられないのが男の性で… …」
「だからと言って、思いきり殴るのは違うわっ」
アロマと呼ばれた女性は立ち上がると、赤毛で左目の潰れたバンパイア、バネズの鼻をきゅっと摘まんだ。
「よっ…よせアロマっ……いだだだだ!!」
強面のいかついバンパイアが、清楚な雰囲気の女性バンパイアに説教をされている光景は、滑稽以外の何物でもない。すぐさま回りには人だかり(バンパイアだかり、と言うべきか)ができ、全員にやにやしながら状況を見守っていた。
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