ダレン&デモナタ 短編

□見据えたもの
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早朝のサーカス団は夜程不気味ではなく、大勢のスタッフと芸人が準備のために目まぐるしく働いていた。
芸人の中には初めて見た奴もいるし、変わらず元気そうにやっている奴もいた。

おれはなんとか気付かれないように端を通りながら歩く。(ここに来る度囲まれて質問漬けにされては、身が持たない!)




「コーマック……さん?」



ふと横から自分の名前を呼ぶ声がした。

シルク・ド・フリークに来て一番聞きたかったその声は、どこか控えめで愛らしい。



「アロマ!」



サーカス団の雑用を主にしているアロマは、たちまち笑顔になっておれのもとへかけよる。




嬉しさを抑えきれず、かけよったアロマを思わず抱き締めた(… …まぁ、そこは『ハグ』とでも言っておこう。)。アロマは少し驚いたように短く声を上げた。


アロマは相変わらず華奢で体つきも女性らしい。
働きぶりも良い為ハイバーニアスのお気に入りだ。
年は20だが、年齢よりも若干幼く見られる。




「会いたかった」


アロマのサラサラとした髪に顔を埋めていたおれは、いつの間にかポロリと本心を口にしていた。気恥ずかしくなったものだから慌てて体を離す。


「……今のは、アレだ……え―…」


目をしばたいているアロマを直視することができず、あちこちに視線を移しながら言い訳を考えた。
だが意外な事にアロマは嬉しそうに笑うと言った。



「私も…会いたかったです」




その笑顔に、声に、体中を巡る電気の様な痺れを覚えた。完全に片想いだと思っていた恋に希望が芽生えた気がしたのだ。

頭がぐらぐらする。おれを見つめるアロマの動きが時が遅れたようにスローモーションに見えて、そして──



「コーマックじゃないか!」



プツリという音と共に、一気に現実に引きずり戻された。サーカスのスタッフの男が駆け寄ってくる。『コーマック』という単語を聞き付けた十数名も顔を輝かせて群がってきた。



アロマはあっという間に群衆に飲み込まれ、見えなくなってしまった。
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