ダレン&デモナタ 短編

□大きな君の小さなヤキモチ
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昼のシルク・ド・フリークは、夜中に開かれるサーカスの準備に追われていた。照明の調節や土産物の補充、衣装の繕いまでその仕事の量は数えきれない。

アロマはこのようなサーカスの雑用を執り行うスタッフの一人だった。



「アロマ!!」

大量のガラスの破片や缶、割れたビンの入った袋をテントまで運んでいる最中、アロマの後方から二人の少年らしき声が同時に聞こえた。

名前を呼ばれたアロマは振り返ると、ダレンとエブラが息を切らして立っていた。


「二人とも……どうかしたの?」

きょとんとした表情を浮かべ、アロマは言った。重い袋を持ち上げ、口の部分をしっかり持ち直す。


「アロマそれ、僕が、持っていくよ」

切れ切れにダレンが口を開く。


「ガラスで手が切れたら、危ない、だろう?」

ダレンを押しのけ、エブラが言う。


「せっかくき──」
「せっかく綺麗な手が台無しだよ、アロマっ!」

更に言おうとしたエブラをダレンが押しのけ、声を張り上げた。


「おいダレン、それおれが言おうとしたやつ!」

「ふーんだ、言った者勝ちだね」

と、目的の本人をそっちのけに喧嘩が始まってしまった。アロマは依然ぽかんとしているが、二人のやり取りが可笑しかったのかクスッと笑った。


「じゃあ」

向かい合って言い合いをしている二人が一気にこちらを向く。


「二人で運んで貰えると嬉しいわ。」


「えっ?」



アロマのその言葉に、二人はすっとんきょうな声をあげた。どちらかの名前が呼ばれるとばかり思っていたのか、二人は衝撃を受けて固まっている。

そんな二人にはい、とアロマは、袋を差し出した。ぼぅっとしていた二人は意識を取り戻すと、徐々に頬を赤らめやがて満面の笑顔で頷いた。


「何かあったら、すぐおれ達を頼ってよ!」

「すぐ行くから!絶対!」


そう言い残し仲良く袋を持っていく二人を見て、アロマは純粋に可愛いと思った。



 

 「何か嬉しい事でもあったのかな、お嬢さん?」


 「は……ハイバーニアスさんっ」


 はるか上で低い声が降ってきたかと思えば、アロマの横には背の高い男が立っていた。
サーカスのオーナーでありアロマの恋人でもある男、ミスター・トールは、穏やかな表情で彼女を見下ろしている。


 「……ふむ、この様子だと……ダレンとエブラかな?」


「まぁ……正解です! とっても可愛いんですよ、あの二人ったら」


 二人の笑顔を思い出し、アロマは頬の緩みを抑えきれなくなった。幸せそうに話す恋人をこれもまた幸せそうに見つめるミスター・トールは、いつもの不気味な雰囲気を完全に見失っている。




「あ!そういえば……」

アロマは思い出したように目を見開いた。


「ハンスさんから聞いたのですけど今日、コーマックさんがいらっしゃるそうですね?」



ミスター・トールは『コーマック』という名前を聞いて少しギクリとした。
そしてその名前を呼ぶアロマの表情が、瞳がこの上なく輝いているのを見て、彼は嫌な予感がするのを感じずにはいられなかった。



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