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□一目惚れ
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▽不二君短編。

放課後の教室。真っ赤な太陽が横から差し込んで、教室をオレンジに染めていた。
部活の途中、教室に忘れ物をしたのを思い出し、抜け出して教室に戻った。
こんな時間なら誰もいないだろう、そう思って何も考えず、教室に入ると、ケータイとにらめっこして、泣いてる女の子がいた。

「ぁ、…」

廊下に嗚咽が聞こえなかったから、きっと静かに泣いてたんだろう。僕の顔を見て、気まずそうな顔をして、小さく声を漏らした。
そして、立ち上がってカバンを手に取りそのまま去って行った。
その時の涙で濡れた彼女が妙に艶っぽくて、印象的だった。
名前もわからない、初めて見た女の子。
なぜ、あの時あの教室で彼女が泣いていたのか、なんてわからない。泣いてた理由がわからないから、妙に印象に残ってるのかもしれない。だけど、ケータイと向き合ってたから、失恋したのかな、なんてありがちなシチュエーションはいくらでもあてはまり、頭から彼女が離れない。
それが今から2週間前のこと。


「不二ぃ、またぼーってしてた」

最近、英二からよくそう注意される。その時は決まってその彼女のことを考えてる時で。
肩にかかるくらいの色素の薄い髪で、きちんと切りそろえられた前髪。濡れたまつげに薄い唇。
そんな女の子は探せばとても多いのに、僕が探すその子は三年間一緒の学校に通ってても見かけたことがない。

「ごめん、英二。それで、チョコレーツがどーしたの?」

「そーそー、それでね!そのあと…」

説明する英二の声を必死に捉えようとしても、右から左へと流れていくだけで、頭に入ってこない。
そんなに女の子のことで頭が一杯になるって僕らしくないやって、少し自嘲。
その時、英二の視線を外して、たまたま、廊下に目を向けた。
そして、見つけた彼女。
不意に目があったような気がした。
そしてそのまま六組の前を通りすぎた。
リコーダー持ってて、音楽に向かってたから、次の授業が音楽なのかな、それだとしたら何組なんだろう。

「英二、次音楽があるクラスってどこか知ってる?」

「ぁ、さては不二、音楽の教科書、忘れちゃった?…ってか、今日、音楽ないにゃ」

「まぁ、ちょっといろいろあって」

他の人が聞いたら、そんなに気になるってそれは恋だっていうのかもしれない。だけど、まだわからないからこの感情がしっかりと固まったら英二にもきちんと話したい、なんて。

「そうだにゃー、たしか…わかんない。乾に聞いたら一発でわかるんじゃにゃい?」

誰か、知ってる人でも通らないだろうか。彼女と同じクラスで僕の知っている人が。
そう思ってじーっと廊下を見続ける。

「なんだ?何かあんの?」

顔の横に英二の顔。
2人してガン見する。ちょっとおかしな風景かも。
だけど、知ってる人は通らなかった。うまいこといかないもんだ。
乾に頼るか。

「ねぇ、乾。ちょっといいかい?」

「不二が俺に用だなんて珍しいな」

「クスッそーかな?それで…」

乾の情報によると木曜日の二限目に音楽の授業があるのはどうやらレギュラーとは被ってなかった模様。あぁ、誰とも情報交換できないじゃないか。
こんなにも彼女について知りたいなんて、やっぱり恋かもね。
少し、自嘲しながら無心にボールを打つ。
コロコロと、転がったボールはフェンスのすぐそばに。
それを拾い上げた刹那、見つけた彼女。
数十秒、いや実際は数秒なのだろうが、彼女から目が離せなかった。
動揺を隠し、コートに戻る。
今度は僕のサーブ。
あぁ、相手のコートに入らない。

「不二先輩。真面目にやってくださいよ」

そんな越前の相変わらずの生意気な意見が飛ぶ。
それをいつもみたいに柔らかくスルーするわけでもなく、僕はただ彼女に向かって歩む。

「ねぇ…」

僕が近づいたからだろう、周りの女の子の声が一段と大きくなる。
だけど、問題の彼女はケータイ、でゲームでもしてるんだろうか、一行に気づかない。

「ねぇ、、」

もう一度、少しボリュームをあげれば、隣にいた子が彼女の関心を僕にむけさせてくれた。
目があった。
とくん、とやっぱり胸は鳴る。

「僕、どうしても君のことが気になるみたいだから、よかったら部活が終わった後少し話せないかな?」

今思えば、よくあの状況でほぼ初対面の彼女にこんなことが言えたな、なんて思う。
かーっと真っ赤に顔を染めた彼女を見て、脈アリかな、なんて少し嬉しく思った。

「あの、私もお話したいです」

真っ赤な顔で見上げられる。
とくとくと心臓は早く打ち付け、きゅぅと愛おしさがこみ上げる。
やっぱり、僕は君に恋したみたいだ。一目惚れ、だけどね。







彼女さいど。

あの日、私は6組の友達を待ってた。急な委員会らしく、とりわけ用事もない私も学校に残ることにした。私の好きな人は彼女と同じクラスで帰り道にいろいろと話を聞く。それだけで充分幸せで、話したこともない。
一時間ほどの暇を持て余した私は、ケータイ小説の続きを読むことにした。切ない恋愛もの。
予想できるオーソドックスなクライマックスにも、やはり涙は必要で。こんな時間に教室に人がいるわけでもないので、人の目を気にせず、ハラハラと泣いた。
泣くと少しスッキリするし。

カタン、っと廊下で物音がした。不意にそちらに視線を向けると、まさに友達から聞きたい彼で。

「ぁ…、」

思わず、カバンを持って飛び出した。
絶対変な人だと思われた。
誰もいない教室で泣いてるなんて。
もう、最悪。
せっかく二人きりであんなにも近くに不二くんがいたのに。
ため息をつきながら、友達に先に帰る、とメールを送った。
でも、彼の視界に少しでも私が存在できた、っていうちっぽけなことが嬉しかった。
彼にとっては何気ないコトでも、私にとってはそれは特別だから。

それが、二週間前のこと。

私は半ば強制的に、その友達に連れられ、男テニのギャラリーの一人となっていた。
実はここに来るのは初めてだったりする。
そんなに近くで彼を真摯に見つめる勇気、なんてなかったから。
いつも、どこか階段の上とかからテニスコートを見つめてた。
こんな近くに不二くんがいると思うだけで、ドキドキして苦しくなっちゃう。
それでもやっぱり、苦しくて、でも間近でテニスをする彼は生き生きと輝いてて、もっとはやくここに来とけばよかったな、なんて少し後悔。

ーブーッブーッ、、

不意に携帯が鳴った。
いくらバイブだったとはいえ、サイレントにしてなかったから、危ない、危ないと思いながら慌てて携帯を取り出した。
相手は珍しく、景吾。
幼馴染である彼のメールの内容は、ほんと急にだが、今私の家に来ているらしい。
だからはやく帰って来いと相変わらずな俺様っぷりに少し笑いが漏れる。

そんな時、不意に隣にいた友達から裾を引っ張られ、顔をあげると、目の前に、あの不二くん。

「ねぇ、、」

きゅぅって締め付けられるような胸の痛みが襲う。
そんな柔らかい笑みで、目があってるのは確かに私で。
どんなコトであれこうして話しかけられるコトが嬉しい。

「僕、どうしても君のことが気になるみたいだから、よかったら部活が終わった後少し話せないかな?」

あぁ、私は夢でもみているんだろうか。
ドキドキ、と心臓が早く打ち付けて、もう苦しくて。
ヤケに口の中が渇いてきた。

「あの、私もお話ししたいです」



このあと、この2人は学校一のバカップルになったことは言うまでもない。

















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