自転車

□らぶれたー
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バサバサッと盛大な音がした。

なんだなんだと集まる野次馬に今泉は舌打ちをし、下駄箱の前に積んどくのも迷惑かと考え、渋々山積みになった物を拾って無造作に鞄につっこんだ。


「おはよーさん。何やそれ?手紙?って何やねんこのえげつない量の手紙の束は!!」
「知らん、下駄箱に押し込まれてたんだよ」
「はー、こないなスカシのどこがええんやろか」
手紙の宛名を適当に見ながら自分の恋人であるはずの鳴子章吉は言った。
いや待てお前仮にも付き合ってんだから良いとこ位見つけてくれ。

「なあ読んでええ?」
「...?好きにしろ」
いつもならば「人の手紙なんか読めるかい!書いた女の子に失礼や」とかなんとか言うくせに、と不思議に思いつつも今泉は了承した。
「うわ、中庭来て下さいやて。絶対告白やわ。知っとるか?総北では中庭が告白スポットらしいで。こっちもや。おっ、こっちもこっちも。自分モテるなあ」
「...別に嬉しくねーよ」
窓から見える青空を睨みつけながら、吹いた風に目を閉じ、ああ今日は自転車日和だな、と頭の片隅で考え今泉は頬杖をついた。

「で、どないすんねん」
「あ?何が」
「行くんやろ?中庭」
鳴子が笑う。いつものように快活に、いたずらっ子みたいに八重歯を覗かせて。だけど今泉には違和感の塊でしかなかった。
鳴子、無理してるな。
「...行かねーよ」
「はあ?何でや」
「お前がいるのに、行くわけないだろ。お前が居るなら俺はそれでいい」
「......」

鳴子の顔を見ずとも息を小さく呑んだのが分かる。
横目でチラっと鳴子を見れば、髪に負けない位真っ赤になってうつむいていた。
ああ、その赤い頬に噛み付きたいと今泉は思ったが、教室内であるが故に実行は出来なかった。

「...............ワイも...」
聞き取れるか聞き取れないか位の鳴子らしくない凄く小さく呟いた声は、今泉の口角を上げさせるには充分だった。
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