【sw】花の愛
□時は経つ
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桜が満開の4月間近。
大きな広間に机と料理を並んでいた。
「あーあ。あっという間に来たわね」
理香はビール片手にそう零した。
名無美の向かいに座る万理子はもくもくとご飯を口に運ぶ。
「いい!?東京は変なのがいっぱいいるんだから変なのについて行ったらだめよ!?」
酔っているからかすごい剣幕で迫る理香に「大丈夫だよ」と名無美は押し戻す。
明日、名無美が東京へと行く。
理由は高校への進学だ。
「そうだ。理一に明日何時に着くか言ったの?」
「言ったよ。その時間にちゃんと駅で待ってるって」
質問した万理子も「そう」と食事を再開する。
理香がまた口を開こうとした時、来客を知らせるチャイムが家中に響く。
「私出てくる」
と理香は立ち上がり、玄関のほうへと向かって歩いていき、数分後戻ってくると、名無美の客であることを告げた。
「よお」
相手は高木だった。
「何の用事?」
「ちょっと話がしたくて」
二人は門の外の階段へ移動して座る。
座ってすぐに高木は
「本当に東京行くのか」
と話を切り出した。
「行くよ」
「東京は嫌いだって言ってただろ」
「嫌い」
「じゃあなんで…」
「医者になりたいの」
名無美はハッキリと。力強い口調でそう言った。
「お婆ちゃんがまだ生きていた時。心臓が悪くて、それを治したくて医者になりたいってずっと思ってた。
もうお婆ちゃんは死んじゃったからそれは叶えられないけど、お婆ちゃんや周りの皆みたいに誰かの役に立つ仕事をしたいって気持ちは変わらない」
「それでも!高校卒業してからでもいいじゃねぇか!!
東だって、寂しがってたじゃねぇか」
東。
名無美が中1の夏休みが終ってから仲良くなった友達だ。
少し気弱な彼女は確かに寂しいと中学の卒業式の時に泣いていたことを思い出す。
「万理子さんにも同じこと言われた。
高校卒業して大学から東京行けばいいんじゃないかって。
でも、私が行く高校は大学までエスカレーター式で、勉学や沢山のことに力を入れているの。
少しでもレベルが高い所で勉強したいの」
名無美は高木の方を向いてフッと笑いかける。
「もう決めたから」