【SW】向日葵は青空の太陽を見上げる

□世界と気持ちの混乱
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健二が連れて行かれた後、皆は再び何事もなかったかのように過ごす。


「名無美、今日もお客さんが多いから手伝ってちょうだい」

「うん」

「じゃあ早速お酒貰ってきて」

「わかった」


名無美は自転車に乗り、本家を出た。


異変に気付いたのは道路の近くに出た時だった。

いつもだったら渋滞するはずのない場所にも関わらず、車が混んでいた。


「…あれ…?」

名無美はあまり気にせずに自転車を漕いでお酒を貰いに行った。


いつもお酒をくれる農家に着くと、畑にいたおじさんがにこやかに一升瓶の酒を3本名無美に渡した。

「大丈夫かい?」

「なんとか…」

名無美はお酒の瓶が割れないように自転車カゴの中に入れる。


「にしても今日は朝から変だね」

「え?」

「なんか…おず…?がおかしくなったせいか知らないけど、今あっちこっちで渋滞だらけらしいんだ。

 うちの息子一家も渋滞に巻き込まれていつこっちに着くかわからないって言われてね」



酒の瓶が割れないようにゆっくり自転車を漕ぐ名無美。

先ほど渋滞していた所を通った時だった。

なんと車がまったく動いていなかった。

「何が起こってるの?」

名無美は一刻も早くOZにログインして調べたいと思い、自転車を再び漕いだ。



「ただいま」

名無美が帰りついた時、丁度家の電話が鳴り、名無美はそれに出る。

すると相手は九州地方にいる親戚だった。


「もしもし?名無美ちゃん?

 良かった。繋がった。何度かけても万理子さん話し中で…。

 それはそうと。今飛行機の点検がなかなか終わらなくて、いつ飛びたてるかわからないの。

 いつ着くかわからないって万理子さんに伝えて」

「わかりました。気をつけてください」

電話を切った名無美はすぐに万理子に伝える。


「万理子さん、九州の米沢さんがいつ来れるかわからないって…」

「なんで皆来られないのよ。どうなってるの?」

皆が携帯を持ってリビングのほうに集まっている。

どうやら渋滞で親戚中がなかなか来れないという連絡らしい。

それどころか、町中の連絡網がおかしくなり、パニック状態でもあるようだ。


それから、数分後のことだった。


「「あ…」」

廊下で健二と名無美はバッタリと会う。


「戻ってきたんですね」

「渋滞がひどくて…その…」

健二は気まずそうにペコリと頭を下げる。


(…そっか…)

名無美はホッとした。

そしてなんだか気持ちが少しだけ軽くなったような気がした。


「佳主馬ですよね。来てください」

名無美と健二は納戸へと向かった。








「ラブマシーンの仕業に決まってんだろ」

健二の友人である佐久間が画面の向こうでそう言った。

ラブマシーンとは今回の騒動の原因である知能コンピューターらしい。

しかも健二が解いたパスワードのせいで色々な人のアカウントが盗まれるということも起こっている。

今や人の権限と等しいと言われるOZアカウント。

盗まれた相手によってはとても危険らしい。

そんな事態に「僕のせいだ…僕の…」と健二は頭を抱えた。


そんな時だった。


「名無美はどこだい」

廊下から栄の声が聞こえ、名無美は顔を出す。


「どうしたの?」

「手伝ってほしいことがあるんだ」




ドサッ




「これで全部?」

名無美は栄の部屋で、栄の前にいくつかの箱を並べる。

「ああ、これで全部だ。名無美、この箱は最近の手紙ばかりが入っている。

 この中からお前さんの知ってる人だけでいい。

 電話をかけて今の状況に関して何か情報が掴めないか聞いておくれ」

「え?」

「一刻を争う状況なんだ。これは戦だよ」

「戦…」

「困ってる人がたくさんいるんだ。お願いね」

「わかった」


名無美はリビングから家の電話を持ってくると、手紙を一つ取り出す。


「この人は…製薬会社の社長…」

「名無美、製薬会社なら何か起こった時に沢山の人に薬を手配できるように頼んでおきな」



「お久しぶりです。…はい…はい…

 ええ。元気です。お願いがあるのですが…」


「頼彦、くじけていないで1軒でも多くのお年寄りを訪問するんだ。いいね?」


「もしもし。陣内の所の名無美です。

 春のパーティ以来ですね。

 実は今の渋滞の原因についてなのですが…」


「邦彦、へこたれんじゃないよ。意地を見せな」


「…はい。ありがとうございます。

 そのように祖母に伝えておきます。

 本当にありがとうございました」


「いいかい克彦。これは戦だよ。

 私もなんとかしてみせるから」


「ほんの少しだけでもいいんです。

 もしかしたらそれが役に立つかもしれませんので」


「勘ちゃん?栄です。ノリちゃんの葬式以来だね。

 ところで同じ武田家家臣のよしみで聞くんだけど、

 国土交通省はどんな手を打っているんだい?

 何?今やろうと思ってた?ふざけんじゃないよ!」


「お久しぶりです。いつもお世話になっております。

 お元気そうで何よりです。…はい…はい。

 皆あなたの力が頼りなんです。そんなこと言わないでください」


「曽根やん。引退した人でも構わない。

 一人でも多くの医療関係者に呼びかけて

 消防庁に協力してほしいんだ。

 あんたんとこのバカ息子のNPOが世の中の役に立つチャンスだよ」


「…はい…はい。どうかお願いします。ほんの少しだけでもいいんです。

 どうか協力を…え?お見合い…?

 会ってお茶するだけでもいいなら受けますよ。

 その代わり、協力してくれますよね?」


「飯富さん?大事なのは昔のように人と人とが声をかけ合って、

 コミュニケーションをとること。

 それを一番分かってるのはアンタじゃないか」


「自信を持ってください。アナタは次期トップなんですから。

 人の役に立つことはきっとお父様も喜ばれますよ。

 ……お茶だけならいいですよ」


「千さん、あんたの決断にかかってるんだ。
 
 そりゃ確かに人手はかかる。

 けど、人の命には代えられないだろ」


「私、これでもお見合いやデートの予約いっぱいなんですよ?

 そうですね…大手フードメーカーのご子息とのお見合い。

 一流企業の次期トップとのデート…

 …ありがとうございます!きっと皆さん喜びますよ。

 その代わり、そちらの三男坊との1時間のデート…え?わかりました。2時間ですね」


「先生はよしてください。

 ただの年寄りのお願いだと思って聞き入れてください」


「いいんですか?そんな事言って。

 お孫さんと少しだけでも会ってみようと思ってたんですけど…

 はい…はい…さすが会長さんです」


「昔のことを言いなさんな垣ちゃん。

 あんたをぶん殴ったのは半世紀も前の事じゃないか」


「さすが社長さんです。太っ腹ですね。

 きっと何万人の人の為になります。

 サービスで長男坊とのお茶2時間にしときますね」


「何千、何万という人が困っている。

 ここで頑張らないでいつ頑張るんだい」


「私でよければご子息のお茶相手になりますよ。

 その代わり、今言ったこと忘れないでくださいね」


「あきらめなさんな。あきらないことが肝心だよ。

 これはあんたにしかできないことなんだ。

 あんたならできる。できるって!

 そうだよ。その意気だよ」


電話する栄と名無美の姿を少し離れた所から見る健二と佳主馬と夏希と翔太。

「今話してた小幡って警視総監だぜ…」

翔太はボソリと言う。

「すごい…」

と夏希も声を漏らした。

「ていうか、名無美途中からデートとかお見合いを交換条件にしてるし」

佳主馬も小さく呟いた。

「皆、お婆ちゃんに励まされてるんだ」

健二も呟く。


電話で話す二人の様子に健二達もパスワード解読に立ち上がったのだった。
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