その3

□1日目の夜
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「ごちそうさまでした!」

そう手を合わせて言った名無し子は早々に片付けて食堂から出て行ってしまう。



「あの名無し子先輩が…」

「普通の人の量だけで出て行ったぞ」

「いや、先輩を化け物みたいに言うなよ。

 あの人普通の量でも大丈夫だから」

「誰も化け物なんて言ってねえよ」


出て行った名無し子の姿と1年生達の会話を聞きながら手嶋と古賀は顔を合わせる。



「恐らく鏑木の所だろう。さっき飯を呼びに行った時も鏑木の所にいたし」

「…やっぱり、鏑木のこと勝手に責任感じてんだろうな」

「選手のケアはほぼ名無しの担当みたいな所あったしな」


青八木がカタンッとお茶碗の上に箸を置く。



「…俺が様子を見てくる」

そう言って自分の食器を片付け、部屋を出て行った。



















名無し子が鏑木の目の上に置いてあるタオルを冷たいものに替えた時、部屋をノックする音が響く。


「はい」

と名無し子が返事をすれば、「鏑木はどうだ…」と青八木がゲーム機を持って部屋に入ってきた。


「さっき少し起きたんですけど…また眠ってます。

 よっぽどこたえたんでしょうね」


青八木も名無し子の横へと腰掛ける。




「…青八木さん、私、カブくんのこと気づきませんでした。

 いつも通りちゃんとよく見てれば、体の限界のサインがどこかにあったはずなのに。

 私…自分や鳴子くんのことで頭がいっぱいで…皆のマネージャーなのに…

 鳴子くんのこともどう声をかければいいかわかんなくて逃げちゃいました」


青八木は名無し子の頭に手を伸ばし、優しく撫でた。



「皆自分のことでいっぱいいっぱいだったよ。

 お前だけじゃない

 鳴子だってお前に下手な慰めをされるより応援してほしいと思う」

「青八木さん…」




「それに、大好きなやつを悪く言われたんだ。

 そりゃ怒る。暴力はダメだが」

「あ、青八木さん!」

青八木の言葉に張り倒そうとしてたのを見られていたと名無し子の顔はプシューと湯気を出して真っ赤に染まった。



「あと2日間。しっかり頑張ればいい」

そう言って「ん」と青八木にハグされ、名無し子は安心したように押し付けた青八木の肩に涙が零れた。



「…鏑木を見とくから風呂に入ってこい。少し汗臭い」

「青八木さん!!」
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