その3

□どうしようもない思い
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選手達全員がゴールに辿り着き、

1日目の表彰式が行われた。


表彰台の【1】の上。

そこには葦木場さんが両腕を広げて立っていた。

サイドの【2】の上には、

実際のゴール者の代理の京都伏見の人と


鳴子くん。




周りが箱根学園の王者復活だと盛り上がる中、

鳴子くん達の表彰も行われた。


先ほどの件もあって少し不安だったが、

カメラを向けられていることに気づいた鳴子くんは

「どうもどうも〜ワイが鳴子章吉やー!どうもー!!」

といつもの調子で笑顔で手を振ってサービスを始めた。

ゴール時の鳴子くんの様子も考えたら、少し気がかりだが、その姿を私もちゃんと1年生達に収めてもらった。

あとで送ってもらお。


身長差のネタでステージ上でコントのようなこともし、その場で笑いが起きる。


私は先に戻ると一緒に見ていた1年生達に伝えて、総北のテントへと戻った。

戻るとやはりそこには良いとは言えない空気があって、

カブくんが悔しそうにステージの方を睨んでいた。


「クソックソックソッ!2位!」

ダンッと勢いよくボトルを置いた後、


「2位、2位、2位!!全部2位ですよ!!

 スプリントも山も獲られてッ箱根学園に!!

 ゴールまで2位ってどういうことッすか!!」



「マメツブって誰が言うかー!!」

と笑いをとる鳴子くんの声も聞こえてくる。



「なのになんで鳴子さんッヘラヘラして笑いとってんすか!!

 自覚ないんすかッ!!アホですか!!悔しくないんですかあの人!!」


その言葉に周りの空気も悪くなると同時に私の手に力も入ってくる。


「やめとけ一差!!」

と段竹くんも制止しようとするが、

「いや言う!!」

と振り払って言葉を続ける。







「あんなんだから2位になったんじゃないんすか!?

 だから負けたんでしょ鳴子さんわッ!!」










全身や目元が沸騰したみたいに熱くなって

私は手を振り上げる。


しかし、それと同時に今泉くんが先にカブ君の前髪を掴んでいた。


「今泉くん!!」

「止めるな小野田。バカに教えてやる」


声をかけた小野田くんに今泉くんは冷静な声でそう言った。


「ハァ!?バカ!?誰のことっすか!俺すか!?」

とカブくんは今泉くんを見上げる。




「鳴子はゴール前、全力でスプリントした。

 俺は真後ろで見ていたからわかる。

 ゴールラインギリギリ。御堂筋が先に仕掛けて、それに鳴子は反応した。

 正確に、かつ確実に勝つ為にバイクを前に投げた。

 タイミングは間違いなかった。俺は勝ったと思った」


今泉くんは静かにそう語る。


「だがまったく同じタイミングで箱学葦木場がバイクを投げた。

 結果、葦木場が勝った。理由がわかるか。

 鳴子が悔しくないかだって?

 一番悔しいのはあいつだよ。

 あいつは身長の差。リーチで負けたんだからな」


ステージから聞こえる鳴子くんの笑いをとる声。



「どうしようもない体格の差。

 それをわかって悔しさをかみ殺してステージに立ってんだよ。

 あいつは強い男だ」



私が言いたいことは今泉くんが言ってくれた。

それと同時に、鳴子くんの努力と悔しさを他にも知ってくれてる人がいたんだと安心した。

鳴子くんの努力や頑張りを2年、3年が知ってるのは当たり前のことだけど。

それを改めて認識して、今日のことで同じことを思っていてとても安心した。

鳴子くんと今泉くんは仲が悪いようでお互いの努力を認めて信頼している。そこもすごいなと思った。




ステージから離れていく鳴子くんが見え、

「私、鳴子くんの様子見てきます」

と自分の目元を拭ってその場から離れた。
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