刀剣乱舞
□夕暮れのトロイメライ
1ページ/1ページ
台所に一人立つ後姿。いつもは二人はいるのに今日は彼以外のご飯作り担当の人は遠征にいってていないのだ。
「薬研くんはほんと働きものだね。なんでもしてくれる。」
「当たり前だろ。この前一緒に飯作るなんていうから手伝わせたら血まみれになってただろう。どうやったらあんなになるんだ?」
私はここにくるまで、いわゆる箱入り娘?とやらだったんだと思う。わりといい家の娘だから料理や洗濯はもちろん、勉強やその他の習い事まで色々やるのが普通だったようだが私の親があんまりにも過保護すぎてなにもさせてくれなかった。前、親友からは「天然の度を越えてる」とまで言われた。
「仕方ないじゃない…初めてだったんだもん…」
「んな暗い顔すんなって!あんたは大将らしくドーンと構えてりゃいいんだ。」
「せ、せめて洗濯とか…!」
「泡だらけにしたのもう忘れたのか?」
「覚えてます…すいません…」
「ならいい。これは俺っちが好きでやってんだから気にすんな。」
ニコッと笑われて頭を撫でられた。あぁ、これだから。
彼のこういうところがすきだ。どうしようもないほど。初恋が刀なんて親友に言ったら笑われるかも。
「私薬研くん好きだよー!お嫁さんにしたい…」
「おいおい、俺っちが嫁かよ。」
「ダメ?」
「こんな細くて、力入れれば折れちまいそうな白い腕とか、綺麗な髪とか。名前、自分の価値知ったほうがいいぜ。勘違いしちまう。」
キュン。胸の奥でそんな音がした。手をぎゅっとしたり、髪に触れながら名前を呼ばれてすごく嬉しかった。
こういうところでやはりほんとは私より年上なんだな、って改めて感じる。小さいけれど男の人の手をしていて、ずっとこの時間が続けばいいのにな。
「勘違いってなにを?」
「気づいてるかわかんねぇが、俺っち大将のこと好きなんだぜ?恋してんだ。」
「え…?うそじゃなくて…?」
「大将にうそなんてつけないぜ。だから、名前のことを嫁にしたい…なんてな。」
少し寂しげに笑う彼を見るといつもこちらまで寂しくさせられる。度を越えてるなんて言われたこともあるけど、ここまで言われて気づかないほどの天然ではない。
彼の笑顔が私の元気になる。彼が幸せだと私も幸せになれる。恋してるから。
「薬研くん…!」
「ま、ガキの戯言だと思って聞き流してくれや。」
「ガキじゃないよ!そ、それに私、はじめてみたときから薬研くんのこと好き!だから…その…」
「…!困ったな…まさか…俺っちそんなこと言われたの初めてだから…もう少しこっちに来てくれねぇか?」
「あ、うん…?」
心臓がドキドキといつもより速く鼓動を刻んでいる。身体のいたるところが熱を持っているようだ。
耳まで真っ赤な薬研くんに呼ばれて傍に行ったら、腕を引かれ彼に口付けられた。
「どうだ、名前…?」
「あ…えっと…」
「ぷっ…今金魚みたいになってるぞ。かわいいけどな。」
頬に触れた手は私の体温と反して少し冷たいものだった。
その手は次に私の手に重ねられ、手の甲に一つリップノイズをたてられた。
「名前。今晩一緒に寝てもいいか…?こんな、人間らしいこと。夢みたいでな…」
「夢じゃないよ。でも寝るって…その…」
「大丈夫だって!まだやらしいことはしねぇよ。」
や、やらしい!?やっぱり恋人同士、ゆくゆくそういうことをするものなのでしょうか…
夕暮れのトロイメライ
(そうだよね、好き同士だから恋仲になったんだもんね)
(そうだぜ、これからも末永くよろしくな。たいしょ。)