死神に揚羽蝶

□死神と揚羽蝶 第一部
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後悔なんかしてねぇよ。

この身体になった事も

暁に入った事も

だってそうだろ?

俺の一番の幸せはジャシン様を世界に広めることだからよぉ。

それ以外の事になんて興味ねぇよ。

その為だったら何でもするぜ。

そう…何でもな。









「おい、起きろよ。飛段!
こんな所で寝てんじゃねぇ。寝るなら自分の部屋で寝ろ!うん」


部屋中に苛立つ声が響き渡る。



「うっせー!
せっかく良い気分で昼寝してたのによぉ・・・」

渋々、眠い目を擦りながら起きる飛段に周りの冷めた視線が突き刺さる。

まぁ、いつもの事さ。
っと言わんばかりに大欠伸をしながら
寝そべっていたソファから重い腰を上げ
ダラリと足を降ろす。


そんな飛段をみて余計に苛立つデイダラ。


“こいつの事はまじで気に入らねぇなぁ、うん。
いつか本気で爆破してやろか”


そんな苛立ちを見透かしたかのように意地悪い言葉を吐く。



「ったくよ〜。
たかが昼寝くらいでガタガタうるせーっつーの!
デイダラちゃんはよぉ〜」


「なっ!!今何つった!?」



そんな空気を察してかどうかは分からないが、最近入ってきた新人が割って入って来た。


「まぁまぁ〜デイダラセンパーイ!

そんなにイライラしてたら女の子にモテませんよ〜。

ほらほら〜リラックス、リラ〜ックス♪」



「おっ!てめ〜トビ!
たまには良い事言うじゃねーかよ!
もっと言ってやれ!」


「てめーら!いい加減にしろよ!」


頭に血が登ったデイダラが起爆粘土に手を突っ込んだ瞬間。



「いい加減にしろ!飛段!」


その一言でアジトに静けさが戻った。


「何だよ角都〜そんな怒鳴ることねぇだろ〜が。」


「先輩は敬えといつも言われているだろう。」


「俺なりに敬ってるつもりなんだがよぉ〜(笑)」


「・・・お前は本当にバカだな。」


呆れた角都も、もう飛段には何も言う気が起こらない。


まぁこんなやり取り、いつもの事だ。


いつだって周りからは「バカ」や「変な奴」としか見られないのだから
でもそれで良い、俺にはジャシン様が居る。
ジャシン教こそが俺の全てさ。
それだけで俺は生きて行ける。
現にジャシン様の力で不死身にもなった訳なんだしよぉ。
てめーら無神論者なんかクソ喰らえだ。
いつかジャシン教に入らなかった事を後悔するぜ。






いつも通りの静かな時間がアジトに流れはじめる。


もう一寝入りしようとソファに深く腰掛けた。
こうやってボーッとしてる時間も悪くねぇな。

そんな事を思い始めた時。


「で、さっきの話の続きですけど〜。
デイダラ先輩はマジでこの先、彼女とか要らないんすかぁ?」


またアイツか。

こいつは本当に喋るのが好きだな。

そんな事を考えてると


「飛段さんも同じですかぁ?」


おいおい、デイダラに無視されたからって俺に振るんじゃねーよ。




「ん〜・・・女の事なんか考えた事もね〜な。
なんせ、俺にはジャシン様が居るからよぉ。
そんなの必要ねーの。」



「ひぇー、本当ですか?

僕なんていつも女の子の事考えてますよ〜。

彼女も欲しいし〜いつか結婚だってしたいですし。」



「まじかよ!?てめ〜正気か?」



「そんなドン引きする事ないでしょう〜。
健全な男としては当然っすよ(笑)」



そんな、顔をしかめている飛段の隣に
デイダラが嬉しそうにやって来た。


「まぁ、こいつが驚くのも無理は無いなぁ、うん。
なんせ、飛段は彼女が出来た事も無けりゃ〜女経験だって無い童貞野郎だからなぁ、うん」



デイダラの発言にアジト全体に微かな笑いが起こる。


「えぇー!!!!
嘘でしょ!?嘘だと言って飛段さん!」


ひときわ大きなトビの声がそれを掻き消す。


「て、てめートビ!
お前はいつもリアクションがデカイんだよ!
しかも何嬉しそうに言ってやがる!!
それにデイダラ!おめーも黙ってろ!」

笑い転げるトビ。


「だ、だって!意外というか何というか(笑) 
正直、飛段さんは黙ってたらかなりのイケメンキャラじゃないっすかぁ〜。
それが、まさかの童貞だなんて(笑)」


「っるせーよ!ったく…ほっとけ!」


「さっきのお返しだぜ、うん」


意地悪く笑うデイダラに、バツが悪そうに顔を背ける。


「じゃあ聞くが、デイダラよ。
アンタだっていつも“アート”だ”爆発“だと言ってるじゃねーか。
あぁ!?そんなアンタが女に興味有るなんて思えねーんだかよ。」


お前だって同類だろ〜が。
そんな思いを見透かしてるかのようにデイダラは答えた

「オイラは芸術家だからよ、うん。
確かに、女にそこまで興味はねぇが
女経験はアンタより有るぜ。
だから飛段、お前とは違うんだよ、うん」



年下のデイダラにまで負けた。


床ではまだトビが笑い転げてる。



「ケッ!そうかよ・・・
今日は、気分がわりーな。」



ムスッとした飛段を見て、慌ててトビが話を振る。


「じゃ、じゃあ、もしも、もしもですよ?
万が一、女の子に「好き」って言われたらどうするんすか?
付き合うんすか?」


まだ続くのかよ!

この話…相手にするのも面倒くせぇな。


「そうだなぁ・・・
とりあえず、『俺にはジャシン様が居るからムゥ〜リ!』って言ってやるよ〜ゲハハハハ」


「まぁ、それにこんな宗教オタク。
女の方から願い下げだろ、うん。
それでも”良い“って女が居るなら相当な変わり者だぜ?
マトモじゃねーな、うん」


間髪入れずに、突っ込むデイダラ。


「確かに、マトモじゃねーな。」

そう自分で言うと、飛段は視線を床に向けた。


そんな事、言われなくたって自分が一番分かってるっつーの。






「飛段、行くぞ。」

角都に呼ばれ、小さく溜息をつきながらゆっくりソファから立ち上がった。

そんな飛段を尻目にトビとデイダラは
まだ俺の事を好き放題言ってるが、まぁ良いか。

女の話になんか興味ね〜しな。


「武器も忘れるな。」

って事は、また賞金首でも狩りに行くのか。

角都は資金集めも任されてるから、俺も相方として付いて行くんだが
最近なかなか賞金首を探し出せずにいる。

そのせいか、角都もイライラして俺を殺すし
ったく、めんどくせ〜ことこの上ないぜ。


まぁ、角都が賞金首探してくれるお陰で
ジャシン様に沢山生贄を捧げれるんだがよ。



「飛段さんは彼女とか要らないんですか?」


急にトビとのやり取りが頭に浮かんだ。

何だよ、こんな時に。

ジャシン様の事を考えてる時に、トビの言葉なんて思い出すとは・・・

ジャシン様への冒涜だな。

そう思うと少し思い出し笑いをした。


「何をニヤニヤしている。
気持ち悪い。」

怪訝そうに飛段へ視線を向ける角都。


「いや、ちょっと思い出し笑いをしちまってよぉ。
ついつい(笑)」


「さっきのトビとのくだらん会話か?」

そう言うと角都は視線を前に戻した。



「何だよ、角都も聞いてたのかよ〜。」


「あんな馬鹿でかい声でギャーギャー騒いでたら嫌でも耳に入ってくる。」


そう言いながら、ズンズン先を歩いて行く角都の大きな背中を見ながら
ボンヤリとついて行く。

そしてフッと思った疑問を投げ掛けてみた。




「じゃあさ、説明しなくて分かるだろうけどよぉ〜。
角都は女と付き合った事ってあんのか?
案外、その厳つい感じとは裏腹に経験豊富だったりしてなぁ、ゲハハハ」



「・・・」



無視かよ。

まぁ、こいつにそんな話を振ったって返事なんか期待してなかったが
女より金にしか興味無さそーだもんな。



2人の間に沈黙が流れる。


飛段が喋らなければ角都から話し掛ける事なんてほとんど無い。

そろそろそんな空気にも飽きた飛段が、別の話題を振ろうと考えてた時。




「もう、前の話だ・・・」


意外にも角都の声で沈黙は破られた。


こんな事は初めてだった。


少し驚く飛段だったが
角都はお構い無しに感情の入っていないその声で話し続けた。


「里を抜ける前に結婚を約束していた女が居た。」


角都の口からポツリ、ポツリと語られる話に
飛段も大人しく聞き入る。


「だか、お前も知っているだろう?

俺は木の葉の初代火影を殺害出来ずに逃げ帰った男だ。
その罪で里でどんな扱いを受けていたかを・・・」


淡々と話すその顔の隅にどこか暗い影が見えた気がした。


「そんな俺でも良い。一緒に居たい。と言われたが・・・
里を抜け、禁術にまで手を出した俺だ。
もちろん、連れて行く事など出来なかった・・・
そんな無責任な事に巻き込む訳には。」



意外だった。


こいつにそんな過去があったとわ。


「あんたらしくない話だな。
そんなに好きなら連れてってやりゃ〜良かったじゃねぇか。
角都くらい強けりゃよ〜。
女の一人や二人どうにだってなるんじゃね〜の?」


話に納得行かない飛段を見て、小さく溜息をついた。


そして少し憐れみを込めた目で


「まだまだガキだな、飛段。」

“まぁ、ジャシン様がどうのこうのと言ってる間は無理だろうな”


「なっ、なんでガキ扱いされなきゃなんねーんだよ!」

“それになんだよ、あの憐れんだ目は・・・気に入らねぇ!”


話しの意味をさっぱり理解出来無いことに腹を立て
苛立つ飛段を尻目に角都はドンドン歩いて行ってしまった。


「そんなに俺がガキかよ・・・」


そして離れて行く角都にも聞こえるくらいデカイ声で・・・


「どいつもこいつもバカにしやがって!
てめーら無神論者どもに何が分かる!?
女なんか何の役にもたたねぇ!
ただの荷物になるだけだろ〜が!?
だから角都だって置いてったんだろうがよぉ、その女!

あぁ?それともなにか!?
そいつはジャシン様よりも凄いのか・・・」


飛段が最後まで言い終わる事なく、角都の拳が顔面にクリーンヒットした。


そして、血まみれの胴体だけが地面にゆっくり横たわる。
一瞬だった。





どこかに吹っ飛んでしまった飛段の首を探しに溜息をつきなが辺りを見回す。


「あそこか。」


そこには夕日に照らされた飛段の生首が地面から恨めしそうに角都を見上げていた。



「いたっ!イッテーよオイ!
もっと優しくやってくれよ!」


「だまれ、元はと言えばお前が喚くからだ。」


首をくっつけて貰いながらお説教され、ますます不貞腐れる飛段。


「だからって、何も言わずに顔面吹っ飛ばすことはねぇだろ!泣」



「どうした?今日のお前はおかしいぞ。(まぁ、いつもおかしいが)」




その言葉に、また拗ねながら反論してきた。


「・・・だってよぉ、どいつもこいつも俺の事馬鹿にしやがって・・・
女を知ってるからって何が偉いんだよ!
あぁ!?」


ギャーギャー騒ぐ飛段。

呆れた顔の角都。


「俺がお前をガキだと言ったのは、そんなつもりで言ったんじゃない。」


「じゃあ、何だよ・・・」

背を向けながら小さく反論した。
それを察するかのように不器用ながら俺に分かるように少しずつ話はじめた。

「トビとデイダラがどういう事をお前に言ったかは知らんが

俺が言いたいのは・・・

女と付き合うって事はそんな生易しいもんじゃあないって事だ。



「?」


「それに女は案外弱くなんかない。
ここぞという時、男以上に根性が据わってるもんだ。」


「そいつはジャシン様より凄いのかよ?」

大人しく聞いてるかと思いきや。
全く話を理解していないこの発言に、さすがの角都も力が抜けた。
大きな溜息をつきながら、
ゆっくりと夕日に輝くその銀髪にポンと手を乗せ。

「女をジャシン様なんてもんと一緒にするな。(小南に殺されるぞ。)
そんな事を言ってる間は、理解なんて出来ないだろう。
それにお前はまだ若い、そのうち分かる時が来る。
多分な・・・」

そう言って俺の頭から手を離した。

優しく子供に語り聞かすように話す、その姿からは
いつもの険しい雰囲気は微塵も感じなかった。

その角都の言う女って奴は、凄いのかもしれない。

あの強面をこんなに丸くしてしまうのだから。

まだまだ分からない事だらけなんだな・・・
何となくそう思いながら地面に視線を落とす。

角都に言われたことを漠然と思い出しても
今の俺には理解出来そうもない。


まぁ別に良いさ。
俺にはジャシン様が居るからよぉ。


自分に言い聞かすようにポツリと呟いた。

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