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□ボクの心のモヤモヤ
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■ボクの心のモヤモヤ
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それはある日の放課後。
杏子からの提案だった。


「ねぇ遊戯、明日って何か用事とかあるかな?」

「明日?何も無いけどどうかしたの?杏子」

「昨日バイト仲間に手頃なシルバーアクセサリーのお店教えて貰ったんだけど、良かったらもう一人の遊戯を連れてってあげようかと思って……」

「……そうだね。もう一人のボクはシルバーが大好きだから、きっと喜ぶと思うよ。分かった、じゃあ明日駅前に10時で良いかな?伝えておくよ」

「本当!ありがとう遊戯。じゃあ明日、駅で待ってるね」


もう一人のボクの好みを理解した上での、お誘い。
善意と好意が見え隠れする、年頃の男女が二人っきりでのお出かけ。
所詮デートという奴だ。


――ツクンッ。


胸の奥が小さく痛んだ。

杏子がもう一人のボクに好意を持っている事は知っている。
いつも側で見ているからね。

優しい杏子。
綺麗なでスタイルバツグンな杏子。
それでいて芯の強い、正義感を持っている杏子。

男子からの人気もダントツな、自慢のボクの幼馴染。

そんな杏子からのお誘いだ。
もう一人のボクが嫌がるわけがない。

しかも行き先は、もう一人のボクが好きなシルバーアクセサリーのお店。きっと喜ぶ。

それなのに……。
君にそれを告げたくないと思ってしまった。

いつからだろう?
杏子がもう一人のボクに対する好意を隠さなくなったのは。

杏子を見るたびに、ボクの心の中に、モヤモヤした感情が見え隠れするようになったのは。

ボクはこのモヤモヤの正体を知っている。
知っていて、知らないふりを続けている。

認めてしまったら、きっと少しだけモヤモヤは軽くなる。
分かっているけど、ボクにはそれが出来ない。


ねぇ、ボクの事だけを見ていて。
ねぇ、ボクの事だけ考えていて。


ボクがそうであるように、もう一人のボクもそうであって欲しいと願う心。


形になりそうでならないモヤモヤは、確実にボクの心を侵食して行く。


自分の身体を持たない君は、ボクの身体が無ければ存在できない。
ボクの身体が無ければ皆には見えないし、カードに触れる事もできない。


ねぇ、ボク以外の人の目に映らないで。
ねぇ、ボク以外の人に触れないで。


君を好きになればなるだけ、深く大きくなって行くモヤモヤ。

このまま君を好きでい続けたなら、ボクの心はこのモヤモヤに飲まれて消えてしまうのかな?好きって気持ちごと……。


「……相棒?どうした?具合でも悪いのか?」

「……え?」

「顔色が少し悪いような気がする。今日は出かけない方が良いんじゃないのか?」

「……そんな事ないよ。それに、杏子と約束しているんだ。すっぽかすわけには行かないよ」

「だが……」

「ホラッ。今日は何着る?君のお気に入りのシルバーに合わせたコーデーにしようか?」


些細な変化も見逃さず、ボクを気遣ってくれる、優しい君。
君の優しが嬉しいのに、ふとした瞬間に頭を過る疑問。


『君がボクに優しいのは、ボクを気遣ってくれるのは、ボクが君の器だからなの?』


捻くれた心は、君の優しさを素直に喜べない。

大好きな気持ちだけ、大事にしていたいのに……。
気が付けば、心の中はドロドロしたヘドロで一杯だ。


待ち合わせの10分前。
先に来て、もう一人のボクが来るのを待っていた杏子。
ボクの――……もう一人のボクの姿を見かけると、途端に色づく頬。
女の子らしい、可愛らしい笑顔を浮かべ、手を降り駆け寄る杏子。

ボクはもう一人のボクに主導権を渡し、心の中――パズルの中――に閉じ籠もる。
二人が一緒に居るところを見たくなくて、目を閉じた。

突然、杏子と二人っきりにされた君が、慌ててボクに呼びかけているけれど、ボクは耳を塞いで聞こえないふりをする。

頬を赤らめて君に話しかける杏子なんて見たくない。
杏子を気遣い、ボク以外に優しくしている君なんて見たくない。
どうせなら、このモヤモヤがボクの目も耳も全部塞いでくれれば良いのに……。


「――……で、杏子の言うように確かに俺好みのデザインの物が多くて、作りもしっかりしていたんだが、その割に安くてどれか一つに決められなくてな、結局今日は見るだけにしたんだ」

「そうなの?だったら予算内でアレコレ買ってくれば良かったのに」


帰宅した君は、今日のデートの内容をボクに事細かに報告してくれる。
君にそのつもりがなくても、ボクは惚気を聞かされている気分だよ。


「でも、どうせなら相棒の意見も聞きたかったからな」

「ボクの意見?君はセンス良いんだから、そんなの必要無いんじゃない?また行くのって二度手間だし、第一売り切れちゃってたらどうするのさ……」

「まぁ、その時はその時だな」

「なぁにそれ?」


ボクは込み上げてくる黒い感情を飲み込みながら、何て事無いように君の話に耳を傾ける。
作り笑いのその裏で、増殖を続けるモヤモヤ。

だけどそのモヤモヤは――……。


「それに杏子と出掛けるのも楽しいけれど、俺は相棒と二人だけの方が気楽で楽しいからな……」


君の一言で、綺麗さっぱり一掃される。


「今度は二人だけで出掛けようぜ」


君の言葉に深い意味なんてない。
そんな事、分かっているのに……。

単純なボクの心は、途端に喜び軽くなる。
フワフワした幸せな気持ちでいっぱいになる。

あぁ、この気持に名前なんて付けたくないのに……。
日毎強くなる想いは、いつまでも誤魔化せない。

あぁ、そうさ……。
認めたくないけれど、認めてあげる。

君に恋しているボクは、君が関わる全てのものに嫉妬している。
君を好きな分だけ、君を独占したくてしかたがないんだ。


 

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