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□奪いたいのに奪えなかったもの
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■奪いたいのに奪えなかったもの
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ーー何もしていなくとも、弱い者は強い者に奪われる。
それは、王の名の下に全てを奪われた幼きあの日に、身を持って学んだ事。
だから俺は力を欲し、得て、欲しい物は何でも手に入れてきた。
山のように輝く金銀財宝も、誰もが羨む美姫も、何もかも……欲望のままに奪い続けてきた。
力があれば、手に入らない物など何も無いと思っていた。
身体を失い、魂だけの存在になっても、その考えは変わらなかった。
だって、憎しみという強い思いに力が宿り、俺はこうして再び蘇る事ができたのだから。
だからアイツも、簡単に手に入ると思っていた。
次代の王だというだけで、始めから全てを与えられていた憎きファラオの魂の器。
弱い癖に頑なで、諦めが悪くて意地っ張り。馬鹿がつくほどのお人好しで、絆されやすくて泣き虫で手に負えない。
でも、誰より綺麗で温かい心を持っていたちんちくりんなアイツ。
そんなアイツに想われているファラオが羨ましかった。妬ましかった。
俺はファラオの敵なのに、怯えながらも差し伸べられた小さな手が、なぜだか大きく感じて……。
何度突き放しても微笑み続けるアメジストの目が、忘れられなくて……。
気がついたら、欲しくて欲しくて堪らなくなっていた。
一回りも二回りも小さな身体を抱きしめて、温もりを感じていたかった。柔らかな微笑みを、ずっと眺めていたかった。
でもアイツは、ファラオの器であり続ける事を選んだ。
いずれファラオに置いて行かれると、分かっていても。
決して力では奪えない何かがーー『絆』が二人の間にはあった。
俺はそれが、欲しかった。
俺だったらアイツを一人にしないのに。置いてなど行かないのに。
俺とファラオ、何がそんなに違ったのだろう?
生まれか定めか運命か……。
王の名の下に、全てを奪われた俺は、様々な物を奪い返したが、最後の最後で心から願った物だけは、奪う事ができなかった。
ーー遊戯、いつの日にかまた、お前に出会う事ができたなら……。
その時は、どうすればお前が手に入るのか、俺に教えてくれ。
俺は奪い、力で従わせる事しか知らないから……。