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□実らなかった初恋
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■癒され行く痛みと決闘王(表くんside)
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夏祭りの翌日、ボクは君から逃げるように寮に戻った。
君はボクの事など気にもしていないのに、自分でも自意識過剰だとは思う。
それでもボクは、堪えられなかったんだ。
ボクじゃない女の子と、一緒に居る君をこれ以上見たくなかったんだ。

そんなの、見慣れているはずなのに、何を今更って感じだよね。

あれから何度も届く、杏子からの謝罪のメール。
今はそれにすら、返事を返せないでいる。

お盆を過ぎれば徐々に賑やかになってくる寮の食堂。
そこで再会した獏良くんは、ボクが肩透かしを喰らうほど見事に、夏祭りの夜の事には一切触れて来なかった。

有無を言わさず、君の前からボクを連れ出してくれた事といい、わざとらしいくらい分かりやすい優しさが嬉しかった。

あんな気まずい場面に遭遇したのだから、聞きたい事は色々とあるだろうに、本当に良い人だと思う。


「ありがとう、獏良くん」


一般的な文化祭が無いこの学校では、新学期を迎えたからと言って、特に生徒が浮き足立つ事は無い。
一学期と同じ、勉強と決闘の繰り返しだけでは気持ちを紛らわせる事が出来なかったボクは、海馬くんの勧めで、決闘者として大会に出る事にした。
戦略を考え、デッキを組み替え、全然知らない人との決闘は、緊張もしたけれどワクワクして楽しかった。

そして気が付けば、ボクは決闘王と呼ばれる立場になっていた。

すると、雑誌の取材やイベントへの出演依頼が来るようになり、ボクは困ってしまった。

元々コミュニケーションが苦手なボク。申し訳ないが、初めの頃は全部断っていた。
でも海馬くんが、『だったら俺が付き添ってやる』と言い出し、毎回忙しい仕事の合間を縫って付き添ってくれるようになった。

いつの間にか交わした契約書のせいで、海馬コーポレーション所属の決闘者になっていたのには、流石に驚いたよ。海馬くん。

そんなこんなで過ぎて行った二学期は、あっという間に冬休みになっていた。

夏休みの時とは違い、純粋な予定で埋め尽くされた年末年始。
家に帰らない事への罪悪感は、もう無い。


君の事も、少しだけ…………気にならなくなったよ。


だからかな。
こうやって、出先で偶然君に遭遇しても、前ほど動揺しなくなったのは。
ボクから君に、また声を掛けられるようになったのは。


「久し振りだね、アテム」

「…………遊戯!?」

「君も大会に出るようになったんだね。知らなかったよ」

「あぁ、お前が出てたから、俺も興味を持ったんだ。俺も決闘は好きだったから」

「そうなんだ。今日の大会、ボクは出ないけど頑張ってね。いつか君とも戦ってみたいな」


勝ち進むごとに鍛えられたポーカフェイ。
それを貼り付けて、なんて事もないように、ボクは君と言葉を交わす。

昔に比べたら、まだまだぎこちないけれど、一時期に比べたら全然マシになったと思う。

本当は知っていたんだ。
ボクが決闘王になった辺りから、君も大会に出るようになった事。杏子が教えてくれたから。

だから海馬くんに頼んで、極力君と接触しないように、色々と調整してもらっていたんだ。

でももう、その必要も無いかな?

痛む心は変わらないけれど、色んな人達に支えられながら、少しづつ、ゆっくりと、癒され昇華されて行く想い。

いつか、君に伝えられたら良いな。
君の事が『大好きだったよ』って。

そして君と一緒に、幼い日の思い出として……あの頃の事を笑って話せる日が来ると良いな。


 

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