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□実らなかった初恋
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■花火と散った夏祭り(杏子side)
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本当に小さな頃から仲が良く、どこに居ても、どんな時でも、二人ワンセットが当たり前だったわたしの幼馴染達。

誰もが羨み、微笑ましく見守っていた小さなカップル。

ずっとそのまま、愛を育み成長して行くのだと思っていた。

それなのに、そんな彼等の関係は、中学入学と共に大きく変わり、脆くも壊れてしまった。

原因は、救いようがないほどの、圧倒的な片割れの鈍さだった。

周りを憚らない仲の良さに、誰も横槍を入れなかったのも悪かったとは思うが……まさかあれだけの好意と独占欲をダダ漏れにさせておいて、無自覚だとは思わなかった。

そんな片割れの信じられない真相が判明したのは、片割れに恋心を抱いたある女生徒達からの玉砕覚悟の告白。
別の小学校から入学してきた彼女達は、知らなかったのだ。彼等の関係を。


「別に付き合っても良いぜ。アンタ、そこそこの見た目だから」


そんな上から目線な返答と共に、アッサリと別の子と付き合い出してしまった片割れ。
それをそのまま、いつも通り手を繋いで、仲良く登校している最中に告げられたもう一人の片割れ。大切なわたしの親友。

あぁ、あの時の、あの子の絶望と悲しみはいかほどだった事か。

相思相愛だと思っていたのは自分一人だけ。
自惚れ、想い続けた心は一方通行だったと、泣きながら笑おうとしたあの子。

優しいあの子は、勘違いしていた自分が悪いのだと言い張り、決して片割れを責めなかった。

そして一人、片割れから離れて行った。

不自然にならぬよう、少しづつ、時間をかけて。

片割れがその事に気づき、慌てだしたのは、それぞれの志望校が確定した三年の三学期。

あの子はわざと志望校を曖昧にし、気づかれることなく、一人私立高校を受験した。
仲の良かったわたしや他の友達とも別れ、片割れの居ない学校を選んだのだ。大好きだった片割れを忘れるために。

勉強に集中したいからと、自宅から通える距離にも関わらず寮に入り、休みの日になっても帰って来る事は無かった。

傷が癒えるまではと思っていたが、夏休みになっても帰ろうとしないあの子を無理やり呼び寄せた八月中旬。

今更ながらに自分の馬鹿さ加減に気づき、泣きついてきた片割れに請われ、わたしは渋々ながらに二人を取り持つ事にした。

しかしそれが間違いだった。

気分転換にと連れ出した夏祭りの境内。
そこで偶然を装いあの子を待つ片割れの下へと誘えば、あろう事かその片割れは、女を侍らせいちゃついていた。


「………………アテ、ム!?」

「……よ、よう。ひ、久し、振り?……遊戯、杏子」

「…………そうね、三日ぶりかしら?アテム」

「あ、あのさ、……遊戯」

「『相変わらず』、君は、元気そう、だね」

「…………いや、これは、その……」


わたしの横で、あの子の小さな肩が震えていた。
心の準備も無しに遭遇した片割れの現状に、あの子の大きな目は見る見る涙ぐんできた。

『ヤバい!』そう思った瞬間。

片割れとあの子の間に、突如現れた人影。

一見美少女にも見えた美少年は、一方的にペラペラと話しかけると、そのままあの子の細い腕を掴み走り去って行った。

その手際の良さに、わたし達は呆気に取られた。

あの子の泣き顔を見なくてすんだ事にホッとしつつも、同時に湧き上がる怒りの感情は、誰に対しての物だったのか分からない。


「アンタがどうしても会いたいって言うから、嫌がる遊戯を無理やり連れて来たのに……コレはどういう事なのかしら!?アテム」


片割れに群がっていた女達は、わたしが睨んだら慌てて逃げ出して行った。

校内でも何度か見かけた事のあるその光景は、祭りのテンションもあり、いつもの三割り増しでクドくイヤらしい物だった。

普段から片割れに言い寄っていたクラスメイト。まさかこのタイミングで彼女達に遭遇するとは、計画が台無しである。


「……誤解、されたよな」

「そうね」

「…………どうしよう、杏子」

「知らないわよ。普段からちゃんと断らないアンタが悪いんでしょ!」

「俺は断ってるんだが、アイツらしつこくて……」

「あーもー最悪!アンタの頼みなんて訊くんじゃなかった。わたしまで遊戯を傷つける事になっちゃったじゃない……」


片割れの愚痴やら後悔やら、その他諸々を聞かされていると、携帯にあの子からメールが届いた。


「今日はこのまま、さっきの友達と適当に見て回るってさ」


多分これは、半分本当で半分嘘の、あの子がわたしを気遣ったものだ。
それを理解した上で、メールの内容を伝えれば、面白いくらいに動揺する片割れ。


「さっきの友達って、あの男か!?危なくないのか!?それよりも本当にただの友達なのか!?どうなんだ、杏子!!」


鈍感でヘタレなのに、会えなくなった分だけ増した独占欲は、自覚してから止まるところを知らない。

空気も人の気持ちも読めて、気が利く見た目も良いあの子のクラスメイトとは大違いだ。
いっその事、彼とくっ付いた方があの子は幸せになれるのではないか?
そんな考えが浮かんだ。

あの子がまだこのどうしようもない片割れを想っているのは知っているが、この片割れ相手では幸せになれない気がする。例え両想いだとしても。


「さっきの獏良くん?だっけ?彼の他にも居るみたいよ。遊戯に惚れてる人」


鈍いあの子は気がついていないようだが、あのクラスメイトは多分あの子に気がある。

それと、校内で噂の海馬コーポレーションの若き高校生社長。
恐らく彼も、あの子に惚れている。
わたしが知らないだけで、他にも居るのかもしれないが、この二人は確定だろう。

いままでは、この片割れが傍に居たから誰も近づかなかっただけで、あの子もなかなかけっこうモテるのだ。

多分あの子がその気になれば、男なんて選り取り見取り。
こんな見てくれだけの駄目男に拘る事は無いのだ。

わたしはもう、この片割れに手を貸すつもりは無いのだが、この先どうするつもりなのだろうか?
あの子の携帯番号もメールアドレスも知らない、圧倒的不利なこの状態で。

仕方がないのでわたしは、極力近くで関わらず、このどうしようも無い片割れの行動を監視する事にした。

何か合った時、少しでも早く、あの子の力になれるように。

わたし達の頭上で鳴り響く打ち上げ花火。

わたし達は来年、誰とこの花火を見ているのだろうか?
あの子が笑って花火を見る事が出来るのならば、わたしは誰とでも構わないのだが……。

片割れとの関係が壊れてしまってから、あの子は余り笑わなくなってしまったから。
あの子を笑顔にしてくれる相手ならば、それだけで良いのだ。

出来る事ならばもう一度、二人仲良く寄り添う幸せ一杯の笑顔が見たいところだが、それは少し難しそうだ。

どうしようも無いほどにすれ違い、もつれて拗れてしまった赤い糸。
それを解く事が出来るのは、多分この…………死人のような顔で頭を抱え、何やらブツブツ呟いて居る片割れだけなのだから。


 

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