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□実らなかった初恋
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■失ったのは俺だけの打ち上げ花火(闇様side)
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普通なら、新しい出会いに胸を踊らせる入学式。
でも俺は、アイツの居ない三年間を思い、早くもへこたれていた。

母親経由で何とか手に入れた、新しい制服姿のアイツの写真。
それだけが、今の俺の心を支えていた。

白を基調とした上着と、水色のブラウス。胸元を飾る少し大きめのリボンは、靴下とお揃いの濃紺色。
裾に水色のラインが入ったプリーツスカートは膝丈で、品良く可愛らしい。

出来る事なら生で拝みたかった。

リビングにアイツの写真を飾った母親の気持ちも分かる。

滅茶苦茶可愛い。

だがしかし。俺の写真と並べて飾るのは止めて欲しい。虚しくなるから。

そもそもアイツの志望校が公立の童実野高校ではなく、私立の方だと知ったのも、受験直前の母親の一言があったからだ。


「明日受験なのに、アンタは随分余裕なのね」

「は?俺の受験は来週だぜ。何言ってんだ」

「あらだって、私立は明日受験日でしょ!だから遊ちゃん今日は早く寝て明日に備えるって言ってたわよ」


俺とアイツが同じ高校を受験すると思っていた母親は、俺が願書を出し間違えたと思って呆れていたが、そんな事は無い。
常に学年でトップ10に入る俺とは違い、アイツは追試組。
誰がレベルの高い私立を受けると思うだろうか。いや、思わないだろう。
だから俺は敢えてレベルを下げて、志望校を同じ公立にしたのだから。

アイツとの距離をもう一度、縮めるために。

しかしそれは俺の勝手な思い込みで、アイツは私立の方を受験し、見事合格した。
しかも春からは寮生活。
気軽に会う事も出来なくなった。

物理的な距離を必要とするほど、俺はアイツに嫌われていたらしい。

まさか成績を偽っていたとは……夢にも思わなかった。


「やっぱり、浮気ばっかりしていたからアンタは遊ちゃんに振られちゃったのね。遊ちゃんの花嫁姿、楽しみにしてたのに」


俺とアイツは『付き合っている(た)』。

それが俺の……俺以外の人間の共通認識だったらしい。

だから小学生の間は、誰も俺に告白して来なかったのだ。俺達はそういう関係なのだと思われていたから。

それが中学に上がり、俺達の事を知らない奴に告白され、馬鹿な俺がそれを受け入れてしまった。

あの時理不尽に感じた、母親や小学校時代の友人達のお小言の意味が、今頃分かった俺。

遅過ぎた自覚と認識は既に手遅れで、修復不可能だった。

それでもせめて、たまの帰宅時にアイツの姿を見られればと思っていたのに……何がそんな忙しいのか、アイツは全く寮から帰って来なかった。

耐えきれず、アイツと共通の幼馴染の杏子に頼み込んで、どうにかこうにか呼び出して貰った夏祭り。

偶然を装い計画した、数ヶ月ぶりの再会。
気合いを入れてやって来れば、俺は運悪く高校のクラスメイトに見つかり絡まれ、挙げ句女に抱きつかれていた。

そんな俺を、呆然と見つめる大きなドングリ眼(まなこ)。

俺は言い訳も出来ぬまま、僅か数分で終わった再会劇。

去り際に、アイツが見せた悲しげな横顔が忘れられない。


俺はまた、アイツを傷つけた。


追いかける資格も無い癖に、その場からアイツを連れ去った、アイツのクラスメイトに俺は嫉妬した。

色素の薄い長髪が印象的な、儚げな美少年。

俺でない男に腕を引かれて、俺から離れて行くアイツの後ろ姿は、あっという間に人混みに埋もれて消えた。

俺に纏わりついていた女達は、杏子が追い払ってくれたが、アイツに見られた後では余り意味は無い。

きっとアイツは、俺と女達の事を誤解しただろう。

俺は自分の気持ちに気がついてからは、女遊びは一切していない。
にも関わらず、アイツの俺に対する印象は変わることなく、女癖の悪い遊び人のままなのだ。

過去の俺を本気で殴りたい。
そしてやり直したい。中学に入学したばかりの頃から。


花火の灯りに照らされ笑う、記憶の中のアイツ。
失った煌めきは返らない。


 
 

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