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□実らなかった初恋
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■俺の初恋 (闇様side)
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俺には子供の頃から、気が付けは傍に居て、何をするのもどこへ行くのもいつも一緒の、所詮幼馴染という奴がいた。

アイツとは、ゲームの趣味から食い物の好みまで同じで、他の誰と居るよりも居心地が良く、安心できた。

俺がアイツを特別に思うように、アイツも俺を特別に思ってくれている。

あの時まで、確かにそう思っていたんだ。

俺達の関係が変化し始めたのは、中学に上がり、俺に初めての彼女ができた頃だった。

いつも通り手を繋いで学校に向かっている時、俺は見知らぬ女生徒に告白され付き合う事になったと報告した。

付き合いたての彼女は、どちらかと言えばスラリとしたスタイルの綺麗系。幼くて可愛い系のアイツとは、真逆のタイプだった。

するとアイツは、面白いほど顔を強ばらせて挙動不審になった。

俺が慌てて『どうした?』と声をかけると、笑って『おめでとう』と返されたので、その時はそれだけだったんだが……それから少しずつ、アイツの態度が変わっていった。

手を繋がなくなって、登下校も別になり、休日も会えない日が増えていった。

俺から話しかければ話しはするが、アイツから話しかけられる事が極端に減った。
目も合わなくなった。

始めは俺に彼女ができたから遠慮しているのか、構ってやれる時間が減って拗ねているのかと思っていたのだが、そうではなかった。

俺が彼女と別れてフリーでいる時も、変わらずそいつは俺に近づいてこなかった。

意図的に開いて行く距離に、俺は寂しさと苛立ちを感じた。

始めは城之内くんがあまりにも彼女を欲しがっていたので、そんなに良い物なのかという興味本位からだった。

理由が理由なので、長続きするはずもなく、俺の初めての交際は直ぐに終わってしまった。

けれどその後も俺は、相手の勢いに流されるように、次から次へと相手を換えては遊びのような交際を繰り返していた。

今思えば俺は、アイツが傍に居なくなった心の隙間を誤魔化すように、手当たり次第、告白してきた相手と付き合っていたのかもしれない。

そうすればそうするだけ、俺からアイツが離れて行くとも気付かずに。

初めて彼女ができた時、どうしてもっと良く考えなかったのだろう。
もっと気にかけていれば、気がつけたはずなのに。

傍に居過ぎて、アイツが居るのが当たり前過ぎて、俺は考えたこともなかったんだ。

なんでアイツと居ると心地良かったのか、なんでいつもアイツと一緒に居ようと思ったのかを。

好物の甘い物も、一人で食べるとただ甘いだけで、ちっとも美味いと感じない。
二人で分け合ってた頃は、あんなにも美味いと感じていたのに。

話しかけたくても、話しかける言葉が見つからなくなった頃。
俺達の進路は別れ、アイツの姿を目で追う事も出来なくなった。
アイツの声を耳にする事も、出来なくなった。

あぁ、俺は、アイツの事がずっと好きだったんだ。
多分アイツも、俺の事が好きだったんだ。

だからあの時、あんなにも悲しそうな顔をしていたんだ。

なんて間抜けで馬鹿な俺。

やっと自覚できた初恋は、随分前に終わっていたなんて……可笑しくて涙も出やしない。

行き場を無くした恋心を振り切るように、俺は無理やりアイツに第二ボタンを押し付けた。

進路が別れる、『餞別』だと言い張って。


桜舞う木の下で、随分久し振りに目にしたアイツの笑顔。
それを最後に、俺の初恋は終わりを告げた。


――遊戯、ずっと好きだった。


 

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