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□実らなかった初恋
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■ボクの初恋 (表くんside)
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ボクは君が好きで、君もボクを好き。
そう信じて疑った事などなかったし、当たり前のように、それがずっと続くものだと思っていた。
でも、それが間違いだったと気づいたのは、中学に上がってわりかしすぐの事だった。
元々女子に人気の高かった君は、新しい環境に慣れるより早く、たくさんの子から告白されるようになった。
そして気がつけば君は、ボクの知らない子と付き合い始めていた。
今日の天気を告げるように、何気なくされた事後報告。
ボクにとってそれは、死刑宣告のようだった。
君と歩くいつもの通学路。
少しだけ照れ臭そうな君の横顔。
繋いだ手の温もりを、今も覚えている。
あぁ、そうか。
君の好きとボクの好きは、意味が違っていたんだね。
君とボクは、恋人同士ではなかったんだね。
なんて惨めで恥ずかしい思い込みをしていたんだろ。
笑い飛ばしてくれれば良いのに、幼馴染の杏子が『大丈夫?』なんて声を掛けるから……ボクの目からは、涙がポロポロ出てきて止まらなかったんだよ。
泣いて泣いていっぱい泣いて、君の前では何でも無いフリをして、ボクはボクの心に蓋をした。
一緒に歩く時は手を繋いで、大好きな甘い物は半分こ。
隣りに居るのが当たり前だったボク達。
いけない事と知りながら、ボクは離れる事ができなかった。
だからボクは、一年、二年と時間をかけながら、少しずつ君から遠ざかった。
君の姿を追いかけて、君の声に耳を澄ました三年間。
君を忘れるには、まだまだ時間は掛かりそうだけど、今日、ボク達は中学を卒業する。
別々の高校に進むボク達を繋ぐ絆は、やがて薄れ過途切れるだろう。
『餞別』として、無理やり君に押し付けられた、制服の第二ボタン。
ボクはそれをギュッと握り締め、精一杯の笑顔を顔に貼り付ける。
桜と共に散った、ボクの初恋。
――大好きだったよ、アテム。