泉月 凪 小説

□殺人鬼パロver.月日
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それは変化と後悔と・・・












昔から親しい友達なんていなかった。いや正確にいえば作らなかった。
俺には必要のないものだ。
いやそう思わなければならなかったんだ。
だから俺は誰も信じないし誰にも心の内を見せない。
見せてはいけないんだ。
それはこれまでも、これからも変わらない自分への誓い。





それが変わり始めたのは何時だったのだろうか・・・。








******









朝起きて机の上を確認する。
昨夜寝るときにはなかった黒い封筒が置いてある。
あぁ、もう1週間も経ったのか・・・。





温かい布団から出るのも封筒の中身を確認するのも億劫で仕方がなかったがそうも言ってられない。
もそもそと布団から抜け出した俺は机の上に鎮座していた封筒を手に取り中身を確認した。





内容はいつもと変わらずとある人物の名前とその人に関する詳細事項。
今回のターゲットを記憶し俺は朝食を食べるべく階下へと向かった。








******







突然だが俺、伊月俊は殺人鬼である。
幼いころから母や姉に色々と教え込まれていた。勿論妹も例外じゃない。
ただし父親だけは分からない。1度も会ったことが無いからだ。





幼いころから人を殺すことを仕事としてきた俺には、もうありとあらゆる感情が無くなっていた。
周りにはそう見えないように振舞ってはいる物のそれも演技にすぎない。
本当の自分なんてもう何処にも居ないのかも知れない。
なんてそんな事どうだっていいのだけれど・・・。
俺はただ、毎週来る仕事の依頼をこなしさえすればいい。
唯それだけでいいのだ。





現在俺は誠凛高校バスケ部のPGをやっている。
幼いころに体力向上の為に初め今まで続けていたというだけなのだが・・・。
正直大分体力は付き、仕事でも十分活かせていた為高校ではバスケは必要ないと思っていた。
しかし、誘われたのだ。バスケ部を作るとか言われて、なんでも良かったんだ。あえて言うなら暇つぶし。その程度だ。
高校でもバスケを続けるに当たって今までよりも体力がついたし、何より良い目のトレーニングになった。
それらは仕事をする上で何より便利だったし、気まぐれでバスケをしてみて良かったかもなんて思ってみたりして・・・。





そして今。誠凛高校バスケ部PGという肩書に加え誠凛高校バスケ部主将、日向順平の恋人という肩書ももらっている。勿論、現在進行中で。
これもまた気まぐれだ。日向が告白してきたから付き合ってみた。
ただそれだけだ。男同士とかそんなのどうでも良かった。特に何にも興味がなかった。
何時もの生活に少しだけ違うものを見てみたかっただけなのかもしれない。
愛を囁き、囁かれ。愛に溺れて溺れさせて・・・。
そんな事の繰り返しだ。





そして俺は今日も日向を優しく撫でた手で人を殺めるのだ・・・。











******








今日も今日とて同じ毎日の繰り返しだ。
朝起きて机の上を確認する。
昨夜寝るときにはなかった黒い封筒が置いてある。





あぁ、もう1週間経ったのかと思い、重い体を無理やり起こしつつ封筒の中身を確認する。
封筒の中身を見て愕然とする。だってこれは・・・この名前は・・・。





数分間依頼の手紙を見つめていたが我に返った。
俺は何を戸惑っているのだろう。こんな日が来ることなんて初めから分かっていたじゃないか。








大丈夫。自分への誓いはまだ忘れていない。









部屋にある鏡に映るそれは日向の恋人の俺ではなく殺人鬼の俺の顔だった。








はらりと落ちた手紙の中央に書かれていたのは幼馴染にしてバスケ部の主将。
そして俺の恋人の名前だった。










******










荒れた部室。
中央に広がる赤い海。
そしてその海の中心に居る少年と傍らに佇む少年。





ぴくりとも動かなくなったかつての恋人が目の前に倒れている。
既に息はないのは確認済みだ。



"日向・・・。"



名前を呼んでみても当然のことながら返事は返ってこない。
体温が既に下がり始めていて・・・もうじき冷たくなるだろう。
俺は無意識のうちに日向が横たわっている隣に腰を下ろした。
早くこの場から消えなくてはならない事は重々承知だ。





しかし、体が言う事を聞かない。
罪悪感が俺をその場に引き止めていた。
罪悪感なんて随分昔、それこそ小学生の頃には失くしていたものだ。
もはや人を殺すことは日常となり、人を殺すことに躊躇することもなければ罪悪感なんて感じなくなっていた。
けれども今の俺は罪悪感でいっぱいで・・・。



"日向・・・"



決して返ってくることなどないと分かっているのに再度彼の名前を呼ぶ。
日向、日向、日向・・・。
幾ら呼んでも無駄なのに・・・意味のないことだと思ってはいたがそれでも俺は繰り返した。





目に写る日向が歪んで見えなくなる。
何故?そう思った拍子に覗き込んでいた日向の頬に温かい水滴が垂れた。





あれ?俺泣いてるの?
・・・なんで・・・?





本当は答えなんて分かってる。
俺は日向を愛してしまっていたんだ。
それもどうしようもないくらいに・・・。
溢れだした涙は止まることを知らないかのように流れ続ける。



"日向・・・。ごめん。本当にごめん。誤って済むことじゃないの分かってる。・・・でも・・・ごめん・・・。"



"もう日向に会えないの・・・?もう日向の声が聞けないの?・・・もう好きって言ってくれないの・・・?"



"勝手だよね・・・。こんなの俺の勝手だよね・・・。でも日向を一人にはしないから・・・。今から俺も行くからちょっとだけ待っててよ・・・。"



「ダァホ、グチグチ言ってんじゃねーよ。・・・もう黙れ・・・。」



ハッとして日向を見る。
しかし、既に冷たくなっている日向の口が開くわけがない。
都合のいい幻聴。しかし例え幻聴だとしても何の問題もない。
俺も直ぐに日向の後を追いかけるのだから・・・。







どうしてこんな事になってしまったのだろうか・・・。



後悔という波に呑まれつつもこんなことを考えている自分の変化に笑いが出る。



自分自身に立てた誓いなどもうどうでも良かった。







もしも普通に日向に出会えていたら、こんな結末も変えられたのかな・・・。























******









「・・・今日未明都内のS高校のバスケ部室にて男子高校生2名の遺体が発見されました。被害者は日向順平(16)、伊月俊(16)両者共腹部を鋭い刃物で切り裂かれ出血多量により死亡。部室内が荒らされていたことから外部犯の可能性があるとみられます。凶器は未だ見つかっておりません。・・・次のニュースです・・・・」










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