泉月 凪 小説

□殺人鬼パロver.チャリア宮
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永遠の恐怖と快楽















何時ものように自主練を終えて部室に戻るともうとっくに帰っていただろうと思っていた後輩がまだ居やがった。
おい、相棒の電波何処に言ったよなんて言ってやろと思ったが俺が言うより前に高尾が口を開いた。





「宮地さんちーっす。あ、真ちゃんなら今汁粉買いに行ってまっすwww」



「別に聞いてねーよ。つーか、背ー向けながら話すとか調子に乗ってんじゃねーよ、刺すぞ。」





お前はホークアイで見えてるんだろうけど、それとこれとは話がちげーんだよと高尾を小突くと"宮地さんwwwマジ痛いっすww"なんて言いながら笑ってやがる。
なんだ、やっぱりこいつはドMか。





自分のロッカーに向かい着替える為に練習儀を脱ぎ制服を掴んだ瞬間高尾が此方を振り向き口を開いた。





「ねぇ宮地さん・・・。ちょっと俺に殺されてみる気ありません?」



「何言ってんだ、お前。轢くぞ。」





反射的に答えた後我に帰る。こいつ今なんて言った?
ふと高尾の顔を盗み見ればこの世で1番綺麗な宝石でも見つけたかの様に目をキラキラさせつつうっとりと俺を見つめていた。
なんなんだこいつ、ついに緑間の電波がうつったか?





「いやーww宮地さん殺し甲斐ありそうなんすもんwwww」





更ににっこりとした顔で俺に迫る。
なんだよなんでそんな顔してんだよ。
何時もと全く違った雰囲気を醸し出している後輩に違和感を抱きながらどうしたものかと頭を働かせる。
しかし結局どうしていいか分からずにいるといつの間にか高尾に距離を詰められていて気付けばその距離なんと10cm。
わー近ーい。じゃねーよ何なんだよマジで。誰かこいつなんとかしろよ。





「チケーんだよ。お前マジなんなの?殺すぞ?」



「何言ってんすかwww・・・殺されるのは、宮地さんですよ?」





背中を何かが伝ったような気がしてぞくりとした。
部室内の温度が氷点下まで下がってしまったのではないかと思わずにはいられないくらいの温度差。





高尾から笑顔が消えたのだ。





いや、口元はいつものように笑っている。
けれどもそれは口角を釣り上げているというのであって笑っているとは言わない。
何より怖いのはその眼。鷹の目は伊達ではない。





何の言葉も発さない・・・増してや何の行動も起こさない俺に痺れを切らせたのか、高尾は10cmもない距離を更に詰めた。





「宮地さん知ってます?実は俺、殺人鬼なんです。ほら、聞いたことありません?被害者は縄でも紐でもなく素手で絞殺されていて・・・って連続事件・・・。」



「俺、嫌がってる子の首をギリギリって絞めていくの・・・大好きなんすよ。」



「ってことで・・・俺に・・殺されてくれますよね?」





知っている。その事件。
最近この辺りで多発しているので注意して下校するようにって監督も言ってたじゃねーか。





口角をきゅっとつり上げ、スッと目を細める。何時もの高尾の雰囲気はどこへ行ったのやら。
ていうか鷹の目怖い。マジ怖い。
更に距離を詰めようとする高尾に恐怖を感じつつもこのままでは不味いという危険信号を察知し、腕を突っ張り高尾を軽く突き飛ばす。そして竦んだ足を無理やりに動かし部室を後にした。





もう、今俺がどんな格好をしていようと構うものか。
それよりもあれは不味い。何がどうしてこうなってしまったのだろうか。





無我夢中で廊下を走っているとふと前方に緑色が見えた。
俺は形振り構わずその緑に抱きついた。





もう誰でもいいから助けてくれ。





身長の割に細い腰に腕を回しながら緑間に訴える。
きっと俺の言葉は支離滅裂だっただろう。
しかし緑間には伝わったようだ。
丁度その時、俺の背後から1番聞きたくない声が聞こえた。





「真ちゃーん!宮地さんつーかまえてーww」



「緑間!逃げるぞ!!」





反射的に緑間の手を引き、声の主とは逆方向に走り出そうとした。
しかしそれが叶う事はなかった。





「宮地さんすみません。」




ガシッと後ろから抱き締められて思わず"ふぇ?"と気の抜けた声が出た。
おい高尾笑ったんじゃねーよ。そして緑間、いますぐ腕を放せ。
殴って記憶飛ばしてやるからよ。





「随分可愛らしい声ですね。」



「うっせーよ!放せよ!!ってか逃げろよ!?」



「宮地さん。確かに高尾はあの連続殺人の犯人です。」



「分かってんなら早く放せ!逃げるぞ!」



「早とちりは感心しないのだよ。宮地さん。犯人が1人だって誰が決めたんですか?」















******














目の前が霞んで良く見えない。



辛うじて見えるのは鮮やかな黒と緑。



息苦しく辛い。



全てがふわふわしている。



まるで広い湖に浮いているような。



これから俺はどうなってしまうのだろう。



意識を手放す直前に感じていたのは恐怖と・・・微かな快楽だった。















******














「ねぇ、宮地さん俺ら・・に殺されかける・・・気ありませんww?」




俺に向けられるのは何時もと何ら変わりない笑顔。
いや、違うな。眼だけはやはり笑っていない。
そんな笑顔を向けてくる可愛い後輩の後ろに居るいつもの無表情は何処に行ったと言いたいくらいに綺麗に微笑む美人な後輩。
そんな2人から目をそらしつつ口を開く。





殺す・・じゃねーのかよ」





そう言うと高尾は今までのそれとは打って変わって普段の緑間以上に表情のない顔で





「殺すわけないじゃないすか、もったいない!あんなに殺しがいのある人なんてそうそういませんもん。」



「ギリギリのところで生かすのが良いに決まってるじゃないっすか。・・・ねぇ真ちゃん?」





話を振られた緑間は貼り付けた様な笑顔を崩さずに言った。





「当然なのだよ。」



「宮地さん。こいつと語り合ったんです。生と死の狭間を行き来させる・・・ことの素晴らしさについて・・・。」



「だから安心してください。殺したりはしません。」



「・・・勝手にしろ・・・。」






俺の返事を聞いたか聞かないかのタイミングで俺の首にどちらともなく手を掛ける。










この狂った世界から抜け出すことなんて出来るのだろうか。



否無理だろう。
しばらくすれば俺はまた目を覚ますのだろう。



・・・もういっそのこと殺してくれ・・・



その思いとは裏腹に俺の口元は綺麗な弧を描いていた。



酷い矛盾だと笑い飛ばしながらもこいつらにならずっと殺されかける・・・ってのも悪くないかもしれないなんて考えている。



薄れゆく意識の中に微かに残ったのはやはり恐怖と快楽だった。














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