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□ストレス解消にはモンブラン?
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日差しが暑くて、冷たいアイスティーをごくりごくりと飲む季節が過ぎ去るころ、僕は体調を崩してしまった。
原因は分かりきっていた。冷静沈着という状態が維持できないほどに、精神が不安定であったこと。
どうにか落ち着こうと、お気に入りの紅茶や緑茶を飲みながら読書をして穏やかに休日を過ごしてストレスを解消しようと試みてもみた。この解消法は知り合いに教えてもらった方法なのだが、自分的にはリフレッシュできたように思えた。
後日、知り合いにお礼の言葉とお菓子を送ったのだが、「全然解消されていない」と、お叱りを受けてしまった。
なにがいけなかったのか。
知り合いの顔が険しくなったのは、本の内容を話したときだったが、ジャンルが好みではなかったのか。
僕は面白いと思ったのだが、趣味嗜好が違うのは致しかたないので、許してもらいたいものだ。
とにかく、この方法は失敗ということで、別の人の意見も聞いてみることにした。
「ストレス解消法?」
「はい。何かありませんか?」
「んー、そうだなぁ」
首をかしげながら一生懸命悩んでくれている彼女は、僕の先輩だ。だけど小柄なせいかとても幼くみえるので、よくからかってしまう。今日も、「先輩は小さくて可愛らしいですね」と、挨拶のかわりに言ってしまった。
身長が低いことを彼女はコンプレックスとしているため案の定、怒られてしまった。
しかし、怒られているにもかかわらず僕はつい、「怒った顔も可愛いですね」と、言ってしまった。しまったと口元を押さえたときには遅く、先輩の手は振り上げられていた。
振り上げてはいたが、僕の腕をそんなに強くはない力で叩くぐらいだ。絶対に、本気で叩いたりはしない。
そんなところも可愛いと思ってしまう要因なのだが、告げてしまわないように精一杯我慢している。
僕が物思いにふけっている間も、真剣に考えてくれていたらしく、腕を組んで唸っていた。
「そこまで真剣に考えてくださらなくても大丈夫ですよ」
すると思いついたのか、腕をほどいてこちらを向く。
「甘いもの!」
人差し指をビシッと突きつけながらそう答える彼女に、僕は少したじろいだ。
「甘いもの、ですか?」
「私ね、落ち込んだりしたときとか、疲れたなーって思った日は、帰りにいつもプリンとかたい焼きとか買うの。あ、たい焼きはもちろん白いやつね。確か、甘いもの食べられたよね?」
「はい。大好きです」
「じゃあ、さっそく今日試してみよう。一緒に買いにいこうね」
帰りの待ち合わせをサラッと済ませると、足早に去っていった。
「えっ、あ……行ってしまった」
先輩と帰ることが出来るのは嬉しい。嬉しいのだが、今回ばかりは困るのだ。何が困るのかといえば、先輩の他にもう一人、実は同じ質問をしていたのだ。
そしてその人も、「君は良く知らないだろうから、一緒に行こう」と、言ってくれていたのだ。
「仕方ない。事情を説明して先輩には後日、付き合ってもらうことにしよう」
そう納得すると、自分の持ち場に戻って最後の追い込み作業を再開する。