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□飽き性オンナと嘘つきドレス
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毎日送られてくるメールが嫌だったから、嘘をついた。
そしたら今度は電話になった。
うんざりしたから切ることにした。
ただ、それだけだった。







「ヒロくんから?」

「うん」

「よく続くわ。ある意味尊敬する」

「私も、そう思う」

呆れ顔で頬杖をつく。

「あのさ、ツッキーに私、言ったよね?」

「私も、その呼び方やめてって言った」

「さっさと切れって言ったよね?こんなことになる前にスパッと切って清々しく、今日この日に会いましょうって‼なのに何でこんなことになってんの⁉」

怒りながら、せっかく綺麗にスタイリングしてきたであろう髪に手を伸ばす親友に、月本は腕を掴んで止めた。

「今日、結婚式に着る服、見るんでしょ?」

「ツッキーのね‼」

少し毒牙を抜かれつつも、プイッと横を向いて腕を組む。

「まったく、どうせ例のあれでしょ?もういい加減忘れなさいよ。ヒロくんだって、そう言ってるんでしょ?」

その言葉に、月本は頬を膨らませた。

「私はっ、別に……」

「あーはいはい、言い訳はもう聞き飽きたわ。お腹いっぱい」

ついでとばかりにお腹も叩く。

「でも、今日私と会ったってことは、覚悟決めたんでしょ?」

「うん、たぶん、一応……」

「よし!じゃあ、あとはお姉さんに任せなさい!私がビシッと決めてあげるわ‼」

ガッツポーズまで決めるものだから、少し引いてしまった。

「よろしくお願いします……」

頭をさげる月本にズイッと人差し指を出すと、さっきまでの勢いはどこいったのか、急に落ち着いた表情で言葉を紡ぐ。

「でも、最後は自分次第よ」

その言葉に月本は怯えた表情をした。
そんな彼女に対してニコッと笑うと、ヨシヨシと頭を撫でた。

「じゃあ、取り敢えずドレスを見に行こう!」

月本の手を掴んで引っ張る引っ張る彼女の背中を見て、少しだけ微笑んだ。





「どう?着れた?」

「あと、少しです」

彼女に連れられてやってきたお店は、とにかく豪華だった。

「ここ終わったら、君にとっては試練の間なところに行くんだから、早くしなさいよー」

「うぅ……やっぱり行きたくない……」

膝から崩れ落ち、おいおいと泣きはじめるも我関せずといった風に、豪快にカーテンを開けた。

「ちょっとそのドレス着て泣かないでよ。あと、へたりこまない!もー仕方ないなあ」

無理矢理立たせると、持っていたハンカチで涙を拭う。

「ほら、泣かないの」

「だって……」

「よく似合ってるわよ」

「……三和ちゃん、今日は優しいね。何で?」

「私はいつでも優しいわよ。変なことを言うのはこの口かー!」

「いひゃい、いひゃい。ごめんにゃはいー」

両手で頬を引っ張って笑う三和に少しだけ違和感を感じつつも、気のせいだと思うことにした。

「よし、じゃあほどよい感じに緊張も解れたことだし、いよいよ行きますか?」

ウッ……と、若干腰を引きつつも、彼女の有無を言わさぬ覇気に圧されてこくりと頷いた。





着くまで、小さい頃の時のように手をつないで歩いてくれる彼女に、月本はこれまで言えなかった分のありがとうを伝えた。
そんな月本の感謝の気持ちに、三和の心が揺れているとも知らずに。

「おかしいよね、何で今こんなこと伝えてるんだろうね」

「……っ、あんたがおかしいのは、いつものことでしょ」

彼女の声が少し震えてることに気づいた月本は回り込もうとするも、三和が到着の合図を出したことで叶わなかった。

「はい、ここからは一人で行くのよ。大丈夫、ここで待ってるから。今のあんたよりもっと輝いてるあんたになって戻っておいで」

「三和ちゃ、」

尚もすがりよってくる月本に三和は苦笑しながらも、頭をぽんぽんとしてやる。

「大丈夫、私はここで待っててあげるから」

そう言って優しい表情をみせる彼女に、月本は決心した。

「行ってくる」

「いってらっしゃい」

ぎこちない足取りで遠ざかっていく背中を、彼女は複雑な気持ちで見送った。





本当は、私がなりたかった。
彼女が怖がっていたトラウマを消し去るのは、私と思っていた。
だけど、実際に真実を伝えた相手は彼で、私ではなかった。
私が出来たことは、せいぜい嘘をつく彼女にチョップをかますことぐらい。
詳しいことは、なにも知らない。
息を吐くように嘘を吐く彼女はもう、何が本当の事なのかも分からないようで。
ただ、彼に会ってからは、変わった。
嘘を吐くのは変わらないけれど、穏やかな表情をみせるようになった。
作り笑いのなかに、本当の笑顔があらわれたのだ。
それが悔しかったから、彼に散々当たりもしたし、いつも月本と一緒にいた。
今思えば笑い話になるな……。

「あーあ、私もそろそろタイムリミットかな」





試練の間を越え、ヘロヘロになりながらも戻った月本は、三和の前に仁王立ちした。

「頑張った」

「おーえらいえらい」

ぱちぱちと拍手してやるも気に入らなかったらしく、頬を膨らます。

「もっと!私、頑張った‼褒めて!」

あまり意地悪しすぎると泣きかねないので、三和は素直に誉めてやった。

「よく頑張ったね。えらいえらい。とっても綺麗だよ」

そう言って抱き締めてやれば、今度はぐいぐいと腕を突っ張って離れようとする。
心なしか頬が赤い気がする。

「もういい……」

そんな月本の態度にいたずら心がくすぐられた三和は、ニヤニヤしながら彼女の頬をつつく。

「あれあれあれー?顔が赤いぞツッキー?もしかして照れてるのかにゃー?」

からかってくる彼女の言葉で更に頬を真っ赤にしながらも、こちらも負けじと反撃する。
三和の手を握ると、強引に引っ張って歩く。
そんな月本の行動に驚いた三和はからかうのをやめ、おとなしくついていく。

「どこ行くの?」

「せっかくオシャレしてるんだもん、もったいないからヒロくん誘ってご飯行くの!」

「ふーん……私パスし、」

遮るように駄目と叫んで振り向いた。

「三和ちゃんがいないと駄目なの!三和ちゃんがヒロくんのこと毛嫌いしてるのは分かってる。でも、今日は一緒にいてほしいの!今日は、特別だから」

涙目でそう訴える月本に、三和は折れた。

「仕方ないなあ、今日だけだよ?」

「うん!」

あ、これは今までで一番良い笑顔かも。
そんなことを思いながらも、無邪気に笑う彼女の横を歩いていた。





「やっと会ってくれたと思ったら、何でこいつもいるの?」

「特別だから」

「「え?」」

二人に直視されて、慌てて訂正する。

「今日は、特別な日なの!」

その言葉に納得いったのか、ヒロは頷いた。
ついでに三和を鼻で笑うことも忘れずに。
そんなヒロに対し、三和は敵意剥き出しでかみついた。

「っだから、こいつと一緒にご飯食べるの嫌だったのよ‼私が左利きだからって毎回毎回珍しそうに眺めてくるし!」

「お、落ち着いて三和ちゃんっ」

「そうそう、怒りながらご飯食べるの良くないよ?」

クシシシと変な笑いかたで三和を嘲ると、スルッと月本のほうに向き直った。

「それにしても、あのツッキーがとうとう……」

ジーっと見られて照れる月本に覆い被さるように抱きつくと、見るなと言わんばかりの勢いで睨み付ける。

「三和ちゃん、食事中に席を立つのはお行儀悪いよっ」

「そうだって。お前、式の途中でそんなヘマやらかすなよ?」

「しないわバカ!」

これ以上騒ぐと店から追い出されるかもしれないほどいがみ合う二人に、月本はあわあわした。
何か、何か良い方法……。
月本が考えあぐねてるあいだにもどんどんヒートアップしていく二人。

「あ!」

月本の声に二人は同時に振り向いた。

「改めまして、結婚おめでとうございます!」

結婚おめでとうという言葉に、ささやかながらも遠巻きに見守っていたお客さんも拍手している。
今の今までぎゃあぎゃあ言い合っていた二人が途端に静かになり、月本は満足げな顔をしていた。


最初に立ち直ったのは三和だった。

「ちょっと待って。どっからその事が漏れた?」

そう言いつつも、横にいる旦那をじろりと睨み付けていた。

「え?違うの?」

「いや、違うくないわ。うん」

「私、三和ちゃんの結婚式に出るために、前髪切ったんだから!ヒロくんが最初はサプライズでって言ってたんだけど、途中で三和ちゃんにバレてややこしくなっちゃって」

「やっぱりお前かー!」

「え、あ、いやごめっ」

「言い訳御無用!せいっ!」

すこーん!と、チョップを綺麗に決めた。
痛がるヒロに少し罪悪感を抱いた月本は、こっそりヨシヨシと撫でてやる。
しかし、それに気づかない三和じゃない。
安定喧嘩再開。そしてご退場を被ることに。







そんな二人の披露宴が行われたのは、それから3日後のことだった。

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