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□お次は桜餅を
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今日も、いつものコースで走っていた。
朝に三キロ走って、夜にはストレッチ。最初は朝にもコースの途中にある土手で休憩がてらストレッチと、途中で買った水を飲んで水分補給もしていた。
あの日、一人の女性を見るまでは。

「よし、今日も良い感じのペースで無事とうちゃーく!」

軽くのびをしながら家に入り、用意いたタオルで汗を拭う。
洗面台で手を洗うついでに顔も洗い、一息ついた。

「・・・今日も、いたな」

あの日から寄らなくなったあの場所に、寄らなくなった原因である女性が今日もいたのだ。
彼女のことはよく知らないけれど、いる理由は分かっている。

「まいったなあ」

頭をポリポリとかきつつ、昨日の帰りにコンビニで買っておいたパンをかじる。
ついでにテレビもつけた。
朝食のお供は数少ない、自分で作れるレパートリーの一つである紅茶だ。
料理はレシピと材料があれば作れるだろうし、実際に適当にその日安く手に入れた材料で有り合わせのものなら作っている。
ただ、自分のために手のこんだものを作るのがめんどくさいだけだ。
適当にテレビのチャンネルを変え、手を止めた。
顔を青ざめさせながら慌ててパンを頬張り、紅茶で流し込む。
そのままのながれでカップを流しにおき、服を着替えて鞄を持つと、急いで家を出た。
鍵を閉めた際に、二回ガチャガチャとノブを回して施錠の確認をすると、猛ダッシュで階段をかけ降りた。
テレビに映っていたのは、いつもの天気予報のお姉さんだった。
その番組の天気予報の仕方は特殊で、毎週予報を伝える場所が変わるのだ。
それだけならそんなに変わっていないのだが、その場所で一般人を捕まえて一緒に予報を伝えるのだ。
ここが意表をつく企画で、気に入って観ていたのだ。
そして今日は、今週はじめての放送。今週は何処だろうかと、つけたのだ。
そしてそこに映っていたのは、あの土手だった。

「急げば間に合う!」

どうしてこんなにも急いでいるのかというと、したいことがあったのだ。

「まだ探してるとこだったし、あそこならそんなに人もいないから・・・いける!」





あの日、泣いていたのだ。
彼女はいつも、一人の男性と一緒に朝の散歩をしていた。時々スコップと袋を持って雑草をとっていたから、きっと山菜採りも兼ねていたのだろう。
土まみれになりながらも、笑っている二人を見るのが好きだった。
いつか、こんな関係を築ける人を自分も見つけようと、目標にもしていた。
けれども、いつからか彼女一人で来るようになり、笑い声が聞こえなくなった。
はじめは喧嘩でもしたのかと思っていた。
けれど、それがただの喧嘩では無いことを知ったのは、1週間前のことだった。
両親に大事な話があるからと言われて実家に戻った。

「お見合い?!」

「もうあなたも26なんだから、そろそろ結婚しないと」

「それは、そうかもしれないけど、」

「それでね、今日そのお相手さんがみえるのだけれど、これが写真ね。男前で素敵な方でしょう?それに、家柄もとっても良くてね」

「・・・お母さん、また外見とお金持ちかどうかで決めたね」

「ほら見てみなさい、格好いいでしょ?」

「あのねえ、外見は関係ない、大事なのは中身だって散々いってるよね?」

そう言いつつも、眼前に突きつけてくる写真を見て、唖然とした。

「お母さん、相手のかたの意思も関係なくこのお見合いすすめたでしょ」

「え?」

「私、この人に相手がいるの知ってるから。もう、私に迷惑かけるのはこの際良いとして、他人にまで迷惑かけたら駄目でしょ?!」

そういって母を説教したあと、彼女の彼氏さんには懇切丁寧に謝罪をして帰っていただいた。
気にしていませんから、そんなに謝らないでください。それにしても、いつもジョギングしてるかただったとは。ああでも、彼女には何て謝って許してもらおう…え?そんな、僕がきちんと彼女がいることを伝えなかったのが悪いんです。だから、あなたは悪くありません。
そんな風に言ってもらえるなんて思ってもいなかったから、ちょっとだけ彼女が羨ましくなった。こんなにも素敵な人と出会えた彼女に。



それからしばらくして、これが原因で喧嘩していることを知った。
お見合いをした彼に、嫌われてしまったのだと思っているのだ。
彼は彼でどう謝罪して良いのか分からず、泣いている彼女を陰からこっそり見つめている日々。
そんな二人がいる土手には当然降りられるはずもなく、今日まできたというわけだ。
そうこうしているうちに、目的地の土手についた。

「ん〜・・・あ、いた‼」

カメラを見つけ、慌てて身だしなみをととのえると、澄ました顔で近付いていった。
近付いてくる人影に気付いたアナウンサーが駆け寄ってくる。

「すみません、少々お時間よろしいでしょうか」

「大丈夫ですよ。あれですよね、毎週場所を変えて天気予報してる」

こちらのことを知っていてくれていたことが嬉しかったのか、アナウンサーの表情が少し和らいだ。

「ご存知なら話が早い。どうです、一緒に天気予報しませんか?」

ここで少し考える素振りをした。即決しては、怪しまれるかもしれないと思ったからだ。

「良いですよ。その代わり、今私のまわりの天気があまりよろしくないので、晴れさせるためのお手伝いをしてくださるなら」

「は、はぁ」

怪しんだ目で見てくるのも無理はない。こんな交換条件をだすやつなんていなかっただろうから。
しかし、切羽詰まっているのか、承諾してくれたようで。

「分かりました。その条件、のみましょう」

心のなかでガッツポーズをすると、手短に説明した。

「つまり、そのお二人のためにするということですね」

「まあ、知り合いってほどでもない、ただの通りすがりのお節介者ですよ」

「良いじゃないですかお節介。では、いきましょう!」

「よろしくお願いします」




「こちらが今日、一緒に天気予報を伝えてくれるかたです」

「よろしくお願いします‼」

「今日はちょっとだけいつもと違います‼題して、『仲直り大作戦』!この企画は、こちらで出会った、自称通りすがりのお節介さんから受けたものです。なんと、こちらの土手には今どき珍しいカップルがいるそうで」

「二人で仲良くここの土手でヨモギ採ってヨモギ餅を作ったりする純粋無垢な二人なんですよ。でも、そんな二人が喧嘩をしてしまいましてね。で、その原因が少なからずも私にありまして」

「それで、今回この場をお借りしてお二人に仲直りをする手助けをしたいってことでしたよね」

「そうです。まあ、事情等の詳細は省きますがー・・・いつもお二人に元気をいただいていました。いつかはお二人のような関係を築ける人を、自分も見つけたいと思えるくらいです。彼女さん、どうか許してあげてください。彼氏さんは貴女を愛しています。彼氏さん、どうか勇気をもって会ってください。彼女さんは貴方を待っています」

勢いに任せてそこまで言いきると、流れるままに天気予報を続けた。

「最後に、お二人がこの番組を観ていてくれることを祈りましょうか!」

「そうですね。えっと、私の我が儘に付き合ってくださり、ありがとうございました!」

「たまにはこんな、キューピットの役割を担うのも乙なものですから、気にしないでください。あなたのおかげで視聴率もなかなか良かったみたいですから」

再度お礼を言うと、番組記念のストラップをいただいて、そこから仕事先に向かった。







そのあと二人がどうなったかは、三人のヒミツ。
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