京都へ行こう

□8の2 屯所、お風呂
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近「さて、先ずは君達の部屋を用意しなくてはな。流石に男と寝るのは気が引けるだろう」
土「近藤さん、部屋なら掃除しないと使えないぜ?それに布団だって干さないと…」
近「む…」

近藤と土方が麻希と来弥の寝る場所の話をしていた。2人は申し訳なくなり口を開く。

麻「あの、私達の事ならお気になさらず…」
来「そうそう。私達なら雑魚寝で充分ですから!」
近「そんなわけにはいかん!!若い女が雑魚寝などするもんじゃない!私の部屋で、私の布団を使いなさい!」
麻「いやいやいや!!逆に気使いますから!!マジで!!」
土「局長である近藤さんがする事じゃない。…仕方ない、俺のを使え。総司、俺は今日お前らの部屋に行く」

そう言われ、総司と原田は嫌そうな顔をした。

土「なんだ?文句あるのか?」
総「土方さんが来るくらいなら麻希さんと来弥さんに来てもらいたいですね」
土「近藤さんの話を聞いていなかったのか?」

土方と沖田がバチバチと火花を散らす様子に2人はオロオロするばかりだった。
すると2人の頭にふわりと誰かが手を置いた。

麻&来「山南さん」
山「2人ともやめなさい。麻希さんと来弥さんが怯えているでしょう」

山南の言葉に土方と沖田は言い争いをやめた。山南は「ふぅ」と溜め息をついてから麻希と来弥にニッコリと笑い言った。

山「2人は私の部屋で寝てください。布団は1組しかないですが、大丈夫ですか?」
来「はい、大丈夫です」
山「私は土方さんのお部屋へ行かせて頂いても?」
土「…あぁ。構わない。山南さん、悪いな」
山「近藤さんもそれで良いですか?」
近「あぁ。山南さん、すまんな」

近藤の言葉に麻希と来弥も「すみません」と謝った。

山「明日はきちんとお部屋と布団を用意しておきますので、今日は我慢してくださいね。原田さん、申し訳ないですが2人の荷物を私の部屋まで運んでください」
原「構わねぇよ。ほら、2人共行くぞ」

原田は2人のキャリーを両手に持ち、部屋を出るため襖を開けた。2人も原田に続いた。沖田が「僕も手伝います」と、続けて席を立った。

近「あぁ、荷物を置いたら2人とも先に風呂へ行って来たらどうだ?その間に飯を用意しておこう」

「ありがとうございます」と2人が礼を言うと、近藤と山南が笑った。
2人が部屋を出てから最後に出た沖田が襖を閉めた。

来「山南さん優しいですね」
原「あぁ、土方さんが〈鬼の副長〉なら山南さんは〈仏の副長〉だな」

そう言って原田は笑った。

沖「土方さんが部屋に来るんじゃないかって少し慌てたよ」
麻「土方さんのこと嫌いなんですか?」
沖「嫌いというか…兄みたいなものなので。認めたくないですけど」
麻「認めたくないんですね」
沖「…やっぱり嫌いなのかもしれないですね」

そう言って笑った沖田は凄く楽しそうで、本当は土方が好きなのだと2人は思った。

原「山南さんの部屋はここだ」

原田が襖を開けた。そこには綺麗に片付いた山南の部屋があり、荷物を部屋の隅へ置いてくれた。

沖「あぁ、お風呂に行くんでしたよね?案内しますので付いてきてください」
麻「あ、用意してから行きます」

キャリーを開け用意する2人の後ろから珍しそうに眺める沖田と原田に、2人の手が止まる。

麻「あの…離れてもらえませんか?」
原「見られたら不味いものでもあるのか?」
来「え?ないと思ってるんですか?」
沖「わぁ!綺麗な布ですね!!」
来「わぁぁぁっ!!なっ!だっ!!何してんのっ!?」
沖「あははっ!来弥さん何を言ってるのか解りませんよー!」

慌てて沖田から取り上げたのは下着。
用途が解らない様で悪びれる様子もない。沖田はただケラケラと笑った。

麻「早く用意して蓋閉めよ」
来「うわぁぁん、沖田さんのばかぁぁ」
沖「来弥さん変な顔〜」

来弥が半泣きで準備するのを沖田は面白そうに見ていた。
早々に準備を終わらせた麻希がケータイを見ると姫からLINEが入っていた。

来「沖田さんが邪魔するから時間かかった!!」

ブツブツと文句を言う来弥に姫からのLINEを伝えると、2人で文句を言う。

麻「ご飯食べてる!美味しそう!!」
来「何が「ありがとう」さ!何が「芹沢さんは酒乱」さ!!ズルいぞー!!」
麻「来弥、八つ当たりしてない?」
来「こっちは下着みられてんだよ!!」
麻「八つ当たりじゃん!」
原「…準備終わったのか?風呂行くぞ」

原田は溜め息をついてから言った。2人が「はーい」と返事をすると沖田と原田が前を歩き、その後ろをついていく。来弥はまだ怒っているようだったが、真っ赤に染まった夕焼けと夜が降りてきたコントラストが綺麗で見とれた。
太陽はもうすぐ消えるだろう。2人はなんだか切なくなる気持ちを太陽に任せた。

「遅かったな」と、風呂場の前で土方が言った。

沖「何ですか土方さん。お2人の風呂を覗く気ですか?」

沖田が土方を睨む。

土「そんなわけあるか!!風呂に誰も入れないようにと見張るんだよ!!」
麻「覗く人いるんですか?」

麻希がキョトンとした顔で聞いた。

土「あのなぁ…お前ら自分の格好見てみろ」

麻希はタンクトップとショートパンツにスラッとした長い手足を覗かせ、来弥は襟の開いたピンクのワンピースを着ていた。

土「姫は腕しか出ていなかったが、お前らの格好は裸同然なんだよ!特に麻希!!」

未来では何て事ない格好も、ここでは相当刺激が強いらしい。
2人は姫の服装を思い出していた。
穴の開いたダメージジーンズにTシャツという格好だったな。と、2人は思った。

麻「…服着てるし。裸じゃないし。」
土「あぁ?」
麻「姫だってこういう服着るし!つーか暑いんだから仕方ないしょ!!北海道から来たうちらには京都は暑すぎるの!!」

珍しく怒る麻希に来弥はヒヤヒヤした。
麻希は普段怒らないタイプで、こんな風に怒る姿はめったに見ない。来弥でもどうなるか解らないのだ。それにこんなことで怒る麻希は見たことがなかった。

麻「マジウザいっ!覗きたきゃ勝手に覗けばっ!?」

そういうと麻希はさっさとお風呂場に消えてしまった。
来弥は土方、原田、沖田にペコッと頭を下げると麻希を追い掛けた。

来「麻希っどうしたのっ!?いつもはあんなのじゃ怒らないしょ!?」

下を向いた麻希の顔を覗き込むと、麻希の目に涙が沢山溜まっていた。
「もぅやだ…」そう言うと麻希の目から涙が溢れた。溢れた涙は止まらず、次から次へと溢れ出す。

麻「服だってあっちじゃ普通だしっ!何であんな風に言われなきゃならないの!?来弥は下着見られるしっ!覗きは出るって言うし、姫はいないしっ!!何でうちらなの!?」
来「麻希…」
麻「幕末って!何で過去に来てんの!?もうやだっ!!!」

麻希が子供の様に声を出して泣いた。
「絶対戻れるよ!大丈夫!」と励ましていた来弥も一緒に泣いていた。
突然の泣き声に外にいた3人は戸惑った。

原「…土方さんのせいじゃねぇの?」
土「俺か!?」
沖「あの布触ったのそんなにまずかったのかな?」
原「さぁなぁ。何に使うかもわかんねぇし。それにあの時怒ったのは来弥だろ?」
沖「そうですよねぇ…」
原「誰か呼んで来るか?」
土「来たところで入れねぇだ「なんの騒ぎですかっ!?」
原「!山南さん!!」

麻希と来弥の泣き声を聞き付けて山南が駆けつけた。

沖「土方さんが麻希さんを泣かせました」
山「え!?」
土「…俺の言葉で麻希が怒ったのは事実だ。俺が悪かった」

山南は土方の肩をポンと叩くと、ドア越しに話した。

山「山南です。お2人共大丈夫ですか?問題がなければここを開けて頂きたいのですが」

山南の言葉に来弥が少し扉を開けた。
鼻までタオルで隠し、目は真っ赤に潤んでいた。その姿は幼児のようで、とても28歳がしている様には見えなかった。

山「大丈夫ですか?私が入っても?」

来弥は麻希をチラッと見てから、「山南さんだけなら」と、山南を中へ入れた。

山「麻希さん、大丈夫ですか?」

麻希は座り込み下を向き、顔をタオルで隠しながら首を上下に動かした。

山「うちの土方が失礼をしたようで…すいません」

今度は首を左右に振る麻希。まだ泣いているのか肩を震わせている。
そんな麻希を山南は抱き締めた。

山「こんなに震えて可哀想に…肩だって冷たくなって…。不安だったのでしょう?大丈夫ですよ。貴方達が未来へ帰れるように全力を尽くします。だから、信じてもらえませんか?」

麻希がコクコクと頷く。そしてその言葉に来弥もその場にしゃがみこんだ。
山南は麻希から離れ、来弥を抱き締めた。

山「来弥さんも。肩が冷たいですよ。大丈夫ですから。ゆっくり湯に浸かって、体を温めてください。そしてご飯を食べて、ゆっくり休んでください」

来弥は震える声で「はい」と答えた。
それを聞いて山南は安堵した。

山「では私は戻ります。何かあれば大声で叫んでくださいね」

そう言うと山南は立ち上がった。

麻「山南さん…土方さんに…怒ったわけじゃな「わかってますよ。でも土方君の言葉がきっかけになったのは事実ですから。大丈夫、土方君もわかっていますよ」

そう言って出ていった。

麻希と来弥は無言で服を脱ぎ、湯に浸かった。
泣いたせいなのか、山南の言葉に安心したのか、2人は目を合わせてからばつが悪そうに笑った。

来「山南さん…優しかったね」
麻「後でお礼言おう」
来「うん」
麻「…土方さんにも…謝る…」
来「…うん」
麻「……姫、ご飯食べ終わったかなぁ…?」
来「美味しそうだったね」

そして2人は同時に「お腹空いた」と呟いた。



麻希と来弥が風呂から出ると、そこには本を読む山南の姿があった。2人が出てきたことに気付き本を閉じた。

山「おかえりなさい」
麻「山南さんっまさかずっとそこに?」
山「本を読んでいただけですよ」
麻「山南さん…さっきはごめんなさい…」
山「大丈夫ですよ」
来「ありがとうございました…」
山「気にしないでください」

ニッコリと山南は笑う。
そして不自然に視線をずらした。
2人が不思議に思い山南の視線の先を見る。
そこには腕を組み、壁に寄り掛かり、下を向いた土方だった。
麻希は土方の元へ走り、ガバッと頭を下げた。

麻「さっきはすいませんでした!」
土「いや、俺が悪かったんだ。俺の方こそすまなかった。…頭をあげてくれ」

麻希は土方をチラリと見ると、土方は「メシ行くか」と麻希を誘った。
「はい」と返事をすると笑顔で来弥を見てVサインをした。
来弥と山南が笑い、土方達の後に続いた。

辺りは暗くなり、先程の夕焼けは影もなく、空にぽっかりと白い月が浮かんでいた。


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9の1 八木邸、お風呂
9の2 屯所、夕飯

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