京都へ行こう

□7の1 姫、八木邸へ
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野「姫さん、荷物貸してください。私持ちます」

部屋を出ると直ぐに野口が手を出した。
キャリーというのに姫は何故か持ち上げて歩いていたのだ。

姫「え?良いですよ。重いですから。それに外出たら引き摺りますので」
野「重いなら尚更持ちますよ。それに貴方より私の方が力はあると思いますので」

ニッコリと笑う野口に姫は反論出来ず、「じゃぁ外まで…」とキャリーを渡した。
「重くない」と言えば良かった。と姫は後悔したが、一週間分の荷物が入っているキャリーは嘘でも軽いとは言えなかった。
そのキャリーを野口は軽々と持ち上げ、姫は少し驚いた。姫から見た野口は背は高いが細く、軽々と持てるような風には見えなかったのだ。
そして玄関を出るとすぐに野口に声を掛ける。

姫「野口さん、もう大丈夫です。ありがとうございました」
野「重いですよ。私が持ちます」

野口は最初から姫に持たせる気などなかったのだろう。そのまま歩いてしまう。

姫「野口さん、本当に大丈夫です!ここから引き摺りますから!」
野「そんなことしたら汚れてしまいますよ」
姫「もう汚れてますから平気です!」

強引に野口から奪うと、姫は持ち手を引き上げガラガラと引いて歩いた。

野「何ですかっそれ!?」
姫「キャリーバッグって言って、底にタイヤがついてるんです」

ほら。と、姫はキャリーの底を見せた。

野「おぉ!この車が回るのですね!」
姫「タイヤですけどね」
野「未来では<たいや>と言うのですね。うーん…私が引いてみても?」

野口の目は初めて見るオモチャに興味を示す、好奇心に溢れた子供の様にキラキラと輝いていた。
姫はクスリと笑うと「どうぞ」と言った。
ガラガラとキャリーを引いて野口は「おおっ!!」と驚いた声を上げる。
そしてそのまま歩いていた野口がくるりと後ろを向き、興奮したように姫に話した。

野「このきゃりーばっぐとやらは凄いですね!軽くなり、持って歩くのも楽になります!!何故さっきは持ち上げていたのですか?」
姫「外で使ってるから、室内で使ったら廊下とか汚れちゃうじゃないですか。あの雰囲気じゃ私達に掃除させてくれなさそうだし、他の人が掃除することになったら可哀想だったので」
野「姫さんは優しい方ですね」

そう言うとまたキャリーを引いて「凄い!凄い!」と、はしゃぐ野口を見て、姫も笑顔になる。そして小走りで野口を追いかけた。

姫「置いて行かないでくださいよ?迷子になっちゃいます」
野「あ!申し訳ありません!私としたことがつい…」

シュンとした野口を見て姫はパシャッと写真を撮った。

野「え!?」
姫「シュンとした姿が可愛らしかったので撮っちゃいました」

そう言って項垂れた野口が映っている画面を見せた。

野「これは何ですか!?」
姫「写真ですよ。未来のほとがら?です」
野「未来のほとがら…」
姫「一緒に撮りますか!?野口さんしゃがんでしゃがんで!」

言われた通り野口がしゃがむと姫が野口の頬に頭を寄せた。
ふわりと姫から甘い香りがした。野口は顔を真っ赤にしながら姫の言う通りにした。

姫「はい、笑って笑って〜!1+1は〜?」
野「なんですか?それ」

そう言って野口が笑ったところでパシャッと機械音が鳴った。

姫「おぉー!良い笑顔!!見てください!それに夕焼け空が綺麗!!最高っ!!麻希と来弥に送ろ♪」
野「送ろ?」
姫「このケータイから2人のケータイに、ほとがらを送るんです」
野「へぇ。ほとがらを…未来は凄いですね!…っと」

ガコン。と、野口はキャリーを玄関に置いた。
話に夢中になって姫はいつ八木邸に着いたか解らなかった。
姫がキョトンとしていると、野口が振り返った。

野「八木邸は屯所の隣なんですよ。姫さん、ようこそ八木邸へ。歓迎します。先ずは芹沢さんの所へ行きましょう」

爽やかに笑う野口につられ、姫は「はい」と返事した。



7の2 麻希と来弥と屯所
8の1 八木邸、夕食
8の2 屯所、お風呂

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