DREAM〜暗殺教室短編〜
□Unexpected love
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業「ねぇ、名無し。何でE組に来たの?」
名無しがE組に転級してきたその日、名無しにされた初めの質問はそれだった。
渚「ちょ、カルマくん…!」
渚の制止も聞かずに、カルマは続けた。
業「成績優秀、容姿端麗。おまけにオレと違って生活態度は生徒の見本になるような名無しが…何で?」
確かに名無しは学年中の奴らに(良い意味で)よく知られている。
だからE組に転級してきた理由は皆が気になっている事ではある。
カルマと渚は名無しと仲が良かったらしく、特にカルマは"信じられない"という顔をしていた。
『この前の中間試験、私にカンニング疑惑がかけられたの。』
名無しがそう言った時、E組一同で目を見張った。
この前の中間試験というと、試験直前に試験範囲が大幅に変更されたアレか。
『試験範囲の変更部分を理事長が講義された日、私は学校を休んでいたの。』
名無しは微笑を浮かべたまま、話し続けた。
『それなのに私は総合10位。そうしたら誰かが"名無しがカンニングをしたらしい"って言い出して…。』
業「何それ。そんな噂、誰が信じて……まさか…。」
『…うん。次の日、担任の先生から言われちゃった。』
"やっぱりな。お前はそういう奴だと思ってたよ。オレの評価を下げた代償は…お前のE組への推薦状だよ。"
殺「…名無しさんは、何も言わなかったんですか?」
『えへへ…。』
タコの問いに苦笑いで返した名無しに何故か腹が立った。
竜「何でヘラヘラしてられんだよ!嫌だったんだろ!?屈辱だったんだろ!?」
業「…寺坂、お前…!」
カルマが今にもオレに掴み掛かって来そうなのを磯貝と前原が押さえている。
『嫌じゃなかったし、屈辱でもなかったよ。』
ピンと張り詰めた空気の中、名無しの声は静かに響いた。
『カルマも渚も…寺坂くんも居るんだから、嫌なはず無い。…屈辱?何が?カンニング疑惑をかけられた事?だったら私は屈辱感なんて無いよ。だって私、カンニングしてないんだもん。』
竜「ちげーよ!E組に落とされた事が屈辱だろ、って言ってんだ!」
『…私、一度だって"落とされた"なんて思った事無い。"転級してきた"んだよ?本校舎の生徒とE組の生徒、何が違うの?』
名無しの真っ直ぐな言葉に、瞳に、オレは言葉を詰まらせた。
『皆、胸を張れるくらい努力している。それだけで良いと私は思ってる。』
名無しは笑顔でそう言い切った。
それからというもの、名無しはすぐにE組に溶け込んでいった。
最近なんて、神崎と源氏物語を読破したいとか話していたり、カルマと数学の難問にチャレンジしたり、奥田と有機化合物を作ったり、磯貝と世界中の貧困について話していたり、中村やビッチと英会話(内容はセクハラ)なんかもしている。
オレは別に名無しと深く関わるような事は無いが、名無しを自然に目で追うようになっていた。
竜「…くそっ…!」
帰り道、一人で悶々としていると、聞き慣れた名前がオレの耳に届いた。
男1「なぁ、アイツ、E組に落ちたらしいぜ。」
女1「マジで!?私、昔から名無しの事嫌いだったんだ〜。良い子ぶってさぁ。」
女2「分かる〜。カンニング疑惑をかけたのが私達だって気付いてないでしょ!」
男2「ざまーみろ…!」
竜「おい。今の話、どういう事だよ。」
オレは目の前を歩いていた男女4人を捕まえた。
女1「何?チクる気?名無しも、アンタもエンドのE組でしょ?」
男2「お前達E組の言葉になんて誰も耳を貸す訳ねぇだろ!」
竜「っ…!」
確かに、オレの言葉じゃ誰も信じてくれないだろう。
学「へぇ…じゃあA組の君達の言い分なら誰もが耳を貸すと?」
振り返ると、そこにはボイスレコーダーを持った浅野学秀が立っていた。
学「君達の言葉、全て録音させてもらったよ。後はこれを…。」
そう言いながら浅野がオレにボイスレコーダーを手渡してきた。
学「名無しに渡せ。好きなようにすると良い。」
竜「…良いのかよ。E組庇って。」
学「勘違いするな。僕は"名無し"を庇うんだ。一応名無しの学力は幼馴染みという贔屓目を除いても、高く評価している。」
…幼馴染み!?
学「…それにしても、E組行きは赤羽が居るから渋ったのだが、やはり行かせるべきではなかった。」
…何言ってんだ、コイツ。
学「君も名無しが好きなんだろ?まぁ赤羽に比べれば強力な敵では無さそうだ。」
そう言って浅野は背を向けて帰っていった。
何だかオレはとんでもない恋を始めてしまったらしい。
だが、気持ちは意外にも浮き足立っている。
(とりあえず挨拶から始めるか。)