異世界の放浪者と

□"鬼の子"と少女の正体
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「まあ…周りの人に影響が出てしまったのは、彼が未熟故だったからね〜…。そのせいで、予想外のことも起きたけどね。」

「予想外のこと…?」

「そう。彼と関わった人々の中で、今も"鬼の子"の話を伝えている、あのアルバニア家のことだよ。」

そのアルバニア家の「リアン」が、ね…と青年は続ける。

「キミはどうやって、"鬼の子"の話を知ったの?」

「リリアからだな。その後に、リヒトからも聞いた。」

「そうかい。なら…二人の話を聞いて、どう思った?」


「どうって…」

やけに話に差がなかったくらい…か?

「…二人の話に違いが殆どなかったな。」

「でしょ?リヒトなら、本人の体験談だから、嘘とかはない筈。でも…リリアは?"リアン"ならまだしも……あれから200年は経っているのに、話はリヒトのと変化がなかったよね〜?」

「確かにな…」

代々語り継ぐにしても、内容が少しずつ変えられてしまう、ということだってあるハズだ。
なのに、リリアから聞いた話は……リヒトの話と差がない。

まるで、"リアン"が語るかのように。


「アルバニア家には、こういう習わしがあるらしいよー。
 黒髪の娘が生まれたとき、"リアン"の記憶を封じ込めた水晶に触れさせ、"鬼の子"と彼女の記憶を刻み込む。…ってね」

「…わざと記憶を植え付けるのかよ…」

「らしいね〜。」

楽しそうに笑顔を浮かべながら、青年は言った。

「でも、何のために…」

「さすがにボクもそこまでわからないな〜。まあ、忘れたくなかったんじゃないのかなー?ああ、でもあの娘はリアンの生まれ変わりみたいだから、尚更かもよー」

「………。」

忘れたくない、か…

まるで、何処かの誰かもそんな風になっていたような…←
まあ、それで病んで狂わなければいいけどな。←

さてと…

「もう一度、戦うんだろ?」

俺がそう言うと、青年はにっこりと笑う。

「やらないよー。でもねー…――――」



チャカリ、と金属音。

青年は銃を向けていた。…正しくは、俺の額に当てていた、だかな…。


「なんの代償もなしに、ここまで話すとでも思った?」

楽しそうに話すコイツの目には、あの狂気が渦巻いていた。

「…だろーな。そんな気はしてた。」


「そう?まあいいや。じゃあ、今からその代償を払ってもらうから」


…抵抗はしない。というか、こんな至近距離で、どうしろと?
横に転がって回避するにしても、弾がいくつ入っているのか把握できていなければ意味がない。

だったら……アレしかない。俺にしか出来ない方法。





覚悟は出来ている。






「抵抗はしないんだねー。まあ、抵抗したところで何も変わらないのだろうけどな〜。」

そうそう、と青年は続ける。

「その覚悟に対してのご褒美あげるよー。キミが最初に訊いてきた質問の答え。」

「なんだよ?答えって」

「街を襲ったのはオマケ。彼女を使ったのは彼を誘き出す為。それらは全部、計画の為さ」

そこまで言うと、引き金に指を乗せた。









「代償はキミの命。…それじゃ、おやすみー」







軽い調子でそう言い、引き金を引いた。









直後、俺の思考は完全に停止した。












 最期に見えたのは、狂気



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