囚姫

□04
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城下から帰れば男が立っている。
徳川家康。
元親の友人の様で仲良く話す姿を見て安心するが視線を感じて元親へ訴えればその原因は徳川の忍、風魔だった

風魔といえば鉢屋と先祖は同じ。
しかしこうして会うのは初めてだ
宴の席で風魔は微かに唇を動かして話して来た

『鉢屋はもうお前だけか?』
『はい。毛利に襲撃を受け、尼子様と共に私以外は亡き人となりました』
『そうか…しかし、鉢屋も立派な忍。主が許したとは言えあまり表立って姿を晒すのは感心しない』
『それは…』
『長宗我部殿が好きならば忍を辞めろ』
『…っ…』
『無理にとは言わない。しかしその気持ちが支障をきたすこともあると言うことを肝に命じるといい』
『…はい』



確かに、元親を死なせたくはない。
やはり自分は忍で生きていくしかないのか…
元親のあの笑顔が好きだ
それを見るために元親の為なら何でもするし喜ばせたいと思っている
忍や物としてではなく人として見てくれる元親が好きだ

元親の部屋で無意識に猫の人形を抱きぼーっと考えていると元親が戻ってきた

しかし様子がいつもと違い切羽詰まった顔をしている

着物を選んだのは、風呂も一緒なのは、厠まで着いてくるのは俺を守るためかと聞いてくる

忍として当然だ。それに元親が好きだから近くに居たい。
守る為と言うのは間違っていないから頭を立てに降れば目の前で項垂れる。

猫の人形を指差してそれは何だと聞かれた為、毛利に貰ったと素直に答えた
毛利が好きかと聞かれたが好きだと思い込もうとしていた事には替わりない為、頭をまた立てに振る

元親は糸が切れたように腕と足を掴み夢中で体を貪った

押し倒された時は毛利を思い出し恐怖を覚えたがすぐに違うことに気付いた

元親は毛利の様に痛くしない
始めると止まらないが体に触れる指や唇は暖かく優しい
何より毛利の時には苦痛でしかなかったこの行為は元親に愛されていると勘違いするほど胸が高鳴り意図せずに甘い声が勝手に漏れる
すればするほど自分の中が元親でいっぱいになる感覚になった

息が詰まる様な苦しさも愛しく幸せを感じた


翌朝徳川と風魔を見送るため元親と城門へと向かう
風魔とはきっとこれが最後の会話だろう
相変わらず微かに唇を動かしているのを読み取るしかない

『気持ちは揺らいだか?』
『あたしは元親が好きだと思う』

『なら忍を辞めろ』
『元親はずっと傍に居ろって言ってくれた。あたしは元親をこれからも守っていく』

『長宗我部殿は国主だ。これからさき正室や側室を取るだろう。今の気持ちのまま任務が出来るか?』
『……それは…』

『仮に想いが通じたとしてもあの長宗我部殿がいくら任務とは言え手を血で染めることは好まないと思う』
『…………』

確かに、もうこの手を汚すなと言っていた
『長宗我部殿に求められても任務と思いその気持ちを押し殺さなければ守ることなど到底できないだろう』
『………………』

目の前にいた風魔は言い終えると黒い羽根と共に消える

元親の元へ駆け寄れば徳川が痣に気付きどうしたのかと聞いてきた
元親としたとは国主の顔があるため言えない

『お仕事してたら付いた』

これが精一杯だった

それからずっと元親は元気がない
何か不味いことをしたのか?言ったか?
それとも嫌いになったのか?

それを考えるとどうも集中力が無くなるのか数人の忍の潜入を許してしまった

元親に気付かれないよう処理してきたが返り血を浴びる度、元親の命を破っている罪悪感が募っていく
きっとこれが風魔の言っていた事だろう。

手を汚さなくて済むよう出来るだけ話をするが相手は忍。
命を受けて来ているため引くことなどできない
こちらも長宗我部の情報を渡すことも元親の寝首を掻かせることも出来はしない
そうなれば血を流す他方法はない

『瑠歌!』

忍二人の喉を短刀で切り裂けば背中で元親の声がする
見られた…
振り返れば元親は悲しいような信じられないような顔でこちらを見ている
命を破ったことを怒るだろうか…
怒られるよりも…嫌われる方が怖い

『…嫌いになった?』

『んなわけねぇだろ』

頭を撫でて引き寄せる大きな手に甘えるように元親の背中に手を回しぎゅっと着物を掴む

この人には嫌われたくない
もう自分の中は元親でいっぱいだ
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