囚姫

□03
2ページ/3ページ

朝日が射し込み重い瞼を開けば腕の中で規則正しく胸を上下させる瑠歌
手は元親の着物を握ったままだ

「ん…元親?」

「悪ぃな起こしたか」

首を横に振る瑠歌の様子はいつもと変わらない
嫌われるかと思ったがそうじゃないのか?我慢しているのか?
瑠歌の考えていることがわからない

「家康を見送らねぇとな。来るか?」

頭を縦に振りもぞもぞと布団から這い出す

こちらに背を向けて羽織っただけの着物を脱ぎ新しい着物に手を伸ばしす
背中にはまだ赤黒い打ち身の跡がある
眺めているとあることに気付く
右手首と左足首に痣がある

これは…昨日俺が掴んだ跡だ

夢中で体を貪り瑠歌がぐったりしていても嫉妬心が収まらず手を押さえ付け足を掴み無理矢理続けた

ー元親は痛いことしない?

四国に連れてくる時確かにこう言った
しかし俺は痣が残るくらい強く掴んでいた
痛かっただろう
毛利を討たない方が、あのまま毛利の元で暮らしていた方がこいつにとっては最良だったのかもしれない

「元親、大丈夫?」

「あぁ」

「元気無い」

大きい着物を着て裾を引き摺りながら胡座をかく元親の元に腰を降ろす

「悪かったな…痛くしねぇって言ったのにな」

右手を持つと袖が落ち痣が覗く
痛々しいそれを見て顔が曇る

「元親だから大丈夫」

微笑む瑠歌に更に胸が苦しくなる
それは俺がお前の主だからだろう?
俺がお前を想う気持ちとお前が俺を思う気持ちは違うんだろう?

「元親?」

気付けば瑠歌を抱き締めていた
瑠歌は背中に手を回して元親の大きな背中を撫でる
そういえばこうやってされるのが好きだと言っていた

「瑠歌…」

「なに?」

「ずっとここに居ろよ」

「うん」

本当は『俺の嫁になって』を頭に付けたかった
拒まれるのが怖い
それならこのままがいいのか?


「元親、見送り」

「そうだな」







「元親!世話になったな!」

「あぁ。気を付けて行けよ!」

瑠歌は風魔と無言で見つめ合う
相変わらず謎の会話をしていたのだろう、風魔が消えると元親の元へ駆け寄る

家康は瑠歌に目線を落とし、頭を撫でてまたな、と言う
元親が頭を撫でれば微笑むが今回は顔色は変わらない。

「ん?瑠歌、その腕はどうした?」

大きいため捲り上げた袖から痣が見えてしまっていた
元親はしまった、と言う顔をして瑠歌を見ると顔色を変えずに口を開く

「お仕事してたらついた」

『お仕事』昨日のあれはこの一言で済まされてしまった
何度も名前を呼び嬌声を上げていた瑠歌を見て少しだけ心が通った気がしていたがその期待は脆くも崩れ去る
俺と瑠歌の間には忍と主の壁がある
俺に対してすることは全て任務に当たるのか?

狼狽する元親に家康は耳打ちする

「元親、鉢屋も風魔も確かに従順で主を一番に考える。それ故にとても不器用だ
お前が思ったことを信じてやれ」

「家康…それはどうゆう…」

「悪いな!皆を待たせている。世話になった!」

九州での事が終わればまた寄る。と言い残し家康は去って行った


家康が見えなくなると呆然と立ち尽くす元親の袖を掴む

「お城に入ろう」

返事もせずそのままゆっくりと二人で城へ入る道を歩く

従順だから不器用?
俺には意味がわからない

「風魔とは会話したのか?」

気になっていたあの無言の時間。
問い掛けてみればこくんと頷く

「少し怒られた」

「あ?何でだ?」

「元親は主だから自分の身分を解れって」

益々意味がわからない…

皆が自分を想って情報をくれるがそれは全て頭を悩ませる種にしかなっていなかった
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ