火之迦具土神

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カグツチが眠りに入って1ヶ月
元親がする話が大好きだったカグツチの為、毎日自分が寝る前に一冊ずつ本をよんでやった

神話、昔話、南蛮の童話…

蔵の本を片っ端から集めたが1年〜2年、4度くらい同じ本を読むことになるかもしれない

「…………めでたしめでたし…っと」

カグツチの横に敷かれた布団に座りいつも通り一冊読み終えた

あれから真田から詫びがあり、カグツチの本を見せてやった為、心配した佐助が時々様子を見に来ていた

「あとどれくらい待てば目を覚ますんだ?」

柔らかい紅い髪を撫でる

「…?」

暗いからか髪の色が少し黒っぽく見える

「…気のせいか…」

蝋燭の火を消し、大きく伸びをして布団に入る

明日はいい加減政務しねぇとな………







白い霧の中を抜ければ白い砂浜があった
見覚えがある。ここは…カグツチと会った島

あれから一度も行っていない為酷く懐かしい感覚になる

参道を上がればあの社がある
いつもカグツチが座っていた場所には違う女が座っている

近付いてみればその女は顔を手で覆い泣いていた

「…どうした?誰だ?」

こちらを見上げるその顔はカグツチそのままだった。
だが赤い目に黒い髪…そこだけはカグツチとは似ても似つかない。

「神那」

「それがお前の名前か?」

こくりと頷く神那はぼろぼろと大粒の涙を流す

「なんで泣いてんだ?」

「カグツチの見ちゃいけない記憶は全部あたしが持ってるの」

「…?」

「人を沢山殺してもカグツチは眠っている間に殺した時の光景も血や人の焦げる臭いも全部ここに置いていく」

「…なぜだ?」

「コノハナサクヤヒメの目を持つカグツチの方が人に好かれるから、汚い所を持っていたら誰にも愛してもらえないから。
磐長姫(イワナガヒメ)の目を持つあたしはここで汚いところを守ってるの」

そうか。
以前蔵から出した本に神話の話が載っていてカグツチに読んでやったことがある
の話だ。
二人は姉妹だが男神に愛されたのは木花之佐久夜毘売だった
後は思い出せない…

だが磐長姫と木花之佐久夜毘売が二人で一つ、陰と陽の関係であれば今までのことは合点がいく


「汚くねぇよ」

「…?」

「人を殺したのは自分を守るため、俺達を守るためだろ?良くない事であってもそうしねぇといけねぇんだろ?」

ずっと一人で抱えて偉いな、と神那を撫でると不思議そうに見上げてくる

「どうした?」

「汚い記憶があっても元親は神那のあたしもカグツチのあたしも愛してくれる?」

「当たり前ぇだろ」

「カグツチの力が弱くなってもいい?」

「あぁ。俺はカグツチの力を求めてこうなった訳じゃねぇ」

「元親はカグツチの力の代わりにあたし達を守ってくれる?」

「あぁ。約束だ!」

気付けば神那の涙は止まっていた

「ありがとう」

「なぁ…何で俺を選んだ?強い奴なら真田でも猿飛でも良かったんじゃねぇのか?」

「強いだけはだめ。みんなを同じように想える人でないとカグツチの力に溺れてあたし達を見てくれなくなるから」

「そう…だったのか…」



神那か空を見上げた為つられて見上げれば雲が薄くなり晴れ始める

「あんた、影に…」

「元親、これから色んな物を見せてね」

日が当たっているのに燃えない神那はにこりと笑う

髪と目の色が違うだけでその笑顔は確かにカグツチそのままだ

「そろそろ時間かな」

「…あ、カグツチはあとどれくらいで目覚める?」

「もうすぐだよ」

もう一度、神那のありがとうと言う言葉が微かに聞こえると

現実の感覚がある自分の瞼が開く
朝日が差し込み眩しい
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