火之迦具土神

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一週間降り続いた雨はやっと止み、曇りになった
海を見渡せば少し荒いがこれなら行ける、と思い船を出すことにした

「着いたな。いつも待たせちまって悪いな」

「いいんですよアニキ!ゆっくりしてきて下さい!!」

仲間に礼をいい島へ行くと長雨のせいか浜辺には海草が打ち上げられ、参道はぬかるんでいた

頂上を見上げれば人影が見える…
紅い髪……

「…カグツチ!!」

ぬかるむ地面に足を取られながら駆け上がれば長い髪を湿り気のある風になびかせて座っている

「鬼さん!久しぶりです!」

「出て大丈夫なのか?」

「太陽の匂いがしないから、そろそろ鬼さんが来るかなって思って出てみました」

無邪気に笑うカグツチに締め付けられる思いだ

「…もし…俺が来なかったら?遅くなって太陽が出てたら燃えてたかもしれねぇ…もう一人で出ないでくれ…」

「…ごめんなさい…でも鬼さん来てくれるって信じてました」

悲しそうに俯かれ今度は申し訳なくなる。

カグツチの社へ手をひいて戻り、いつもの様に階段へ腰かける

「一週間、一人だったのか?」

「二回、忍のお猿さんが来ました!」

「忍の猿?…武田か?」

「えっと…大将の力を強くって言ってました」

武田までカグツチのことを知ってるのか…

「鬼さん、鬼さんはちょかべですか?」

不意に今日の手土産の饅頭を食べながら言う

「…ちょかべ?」

「お猿さんが、鬼さんってちょかべ?って言ってました」

「長宗我部元親。俺の名前だ」

「あ、それです!」

「鬼さんじゃなくて元親って読んでくれ」

「もとちか…」

カグツチは少し恥ずかしそうに呟く
人を名前で呼ぶのは初めてらしい

雨の間の話をしてくれた。
ミカンの木に一人で行けたこと、帰れなくなり困っていると猿が来て社へ帰してくれたこと、大将を強くしてと言われたこと、二回目は様子を見に来ただけのようで、先程座っていた場所までまっすぐ何歩か、を教えてくれたと言う


「元親、目って全然見えないと開いても真っ暗なの?」

「ん?あぁ…そうらしいな」

「じゃああたしの目もしから見えるのかも」

「…包帯取ったのか?」

驚いていると猿に言われて少しだけ目を見せた事を話してきた
猿め…

「元親がどんな人が見てみたかったの…でももやもやしててちゃんと見えなかったの」

「俺は見えなくてもちゃんと毎日来てやるから。包帯取ると怒られるんだろ?取っちゃダメだ」

頭を撫でてやると少し恥ずかしそうに頷く

「お話しして」

「いいぜ」


武田はきっとカグツチを兵隊の様には扱わないだろう
しかし…守れるなら自分が守りたい


「…元親」

カグツチは少し怯えた様に元親にひっつき、腕に手を添えてきた

「…どうした?」

参道の方が何やら騒がしい
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