龍神

□03
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逃げるなとでも言う様に後ろから腹に腕を回され、政宗の膝に入るように座ると肩に頭を乗せられる

「何で三千日参るの辞めたんだ?」

「…辞めたんじゃない。出来なかった」

「Ah?どうゆうことだ?」

きつく締める腕に観念して政宗の胸元にすがるように体を預ける

「物忌を終わらせていない小十郎は穢れを持ってきた。それに顔の傷の血が着いたんだ。小十郎を見送った後、穢れで苦しくなって池に入ると竜の姿のまま約五年間眠ってた」

「五年…?」

「その間参れなかったから振り出しに戻ってしまった
起きた時には浄化されてたから元通りでそこからまた三千日参ってる」

「じゃあ…あと三年程度か?」

政宗は指を折って数える

「そうだな」

「八年後、小十郎は迎えに来たらしいぞ」

「…だろうな」

あの小十郎だ。
約束を違える筈がない
しかし三千参りは間に合わず、今度はこちらが約束を破った

「小十郎はもう二十五か…嫁は?」

「いねぇ。嬉しいか?」

「逆だな…いつまでも待たずに結婚してしまえばいいのに」

鼻で笑うが寂しさからか少しだけ悲しそうな感じがする

「…髪の束は?」

「死んだと思え。と言う意味だ」

「また三千日頑張れば会えるだろ?」

「だめなんだ…今まで何度もしてきた。でも必ず邪魔が入って振り出しに戻る」

三百五十年生きてきて何回人間になる道を断たれたんだ?
それだけ人間になりたいのか?

「人間になりたい理由、他にあるのか?」

「…恋って楽しいか?」

肩に乗る暗い茶色の頭に自分の頭を寄せる

「苦しい…成就すれば幸せだろうな」

「そっか…」


そのまま夕刻まで政宗の頭を肩に乗せたまま、何が好きだ、何をしてみたいという話をしていた

「夕暮れだな」

「………」

「あと三年、頑張れよ」

ゆっくり階段を降りると頭に大きな手が乗る

「どうした?いきなり」

「小十郎はもういいんだろ?今度は俺が迎えに来てやるよ」

「…政宗」

「誰にも邪魔されんなよ?」

小さく頷くと唇が一瞬触れて階段の向こうへ行ってしまった

居なくなったのを確認するとゆっくりと階段を登る

政宗が居ないここは静かだ
先程まで政宗が座っていたところを触れば微かに暖かい

気付けば頬を伝ってぽたぽたと雫が落ちる
何故涙が出るのか自分でも解らず止まらない涙を何度も何度も拭う

これは…なんの涙?
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