龍神

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深い水の中で目が覚める水面を見上げれば日の光が射していることがわかり、体を起こしてゆっくりと岸へと上がる

音を立てて水から上がれば鱗は人の肌へ、鬣は髪の毛に、角は縮み、鋭い爪の足は人の足に変化していく

空を見上げればもうすぐ太陽が頂点に付きそうだと思いゆっくりと降らせていた雨を止める

これで政宗の国の民は助かっただろうか?
小十郎の畑は潤っただろうか?

いつもの様に小屋に入り座るが今日はやけに静かだ
こんなに静かなのは久しぶりの気がする…そうか。今日はまだ政宗が来ていない

そう一人で思いながら池を眺める
もう一度空を見るが太陽はそんなに動いてはいない

いつもは昼までに顔を覗かせるのに今日はやけに遅い。
小十郎に稽古でみっちり絞られているのだろう
想像すれば少し口元が緩む

政宗は今の小十郎のことをよく教えてくれる
小十郎の畑でできた野菜は天下一品だとか、稽古などでは厳しいが、真面目で的確な意見を出してくれる良き理解者だと言う
いずれは自分の右目として側に居てもらうつもりとも言っていた

昔の小十郎からは想像もつかない
思ったことははっきり言うところは変わってない様だが…
何と言うか丸くなったようで安心した

「少し…力を使いすぎたかな」

大きく欠伸をして小屋で横になる
そのうち政宗が来てあの妙な南蛮の言葉で起こしてくるだろう。

えぇと…昨日で何夜目になるんだったかな…千八百夜か…まだあと千二百夜か
まだ先は長いな…

そんなことを考えていると眠気に勝てず目をゆっくりと閉じる

「……おなかすいた………」
そういえばこの1ヶ月話すばかりであれを貰ってなかったな…





心地よい風に気付き目を開けると夕焼けで辺りは真っ赤に染まっていた
政宗は来なかった様だ
忙しいのか…

大きく伸びをしてぼーっとするといつもと違う臭いに気付く
随分離れた所からの臭いだとは思うがあまりいいもにではない。
これは…火薬と血の臭い
臭いに耐えきれず池に身を沈める

龍の姿で水底に居れば嗅覚がよくても臭いは嗅がなくて済む。

戦だろうか?
政宗は、小十郎は出陣したのか?
どちらにしてもきっとしばらく政宗には会えない。
数日過ぎるまでこのまま池に身を潜めることにした
次出る頃には臭いは消えているだろう

もう一度目を瞑る







夜になり出陣した軍を率いて城へ戻ると皆に祝福された

「政宗様。見事な初陣でございました。」

「HA!お前の教え方がいいんだろう」

「その様なことは…」

「これからも右目で居てくれよ」

小十郎は嬉しそうに一礼をすると侍女が風呂の知らせに来る

「政宗様、風呂の後、お話しすることがございます。」

「hmm…そうか」

これからのことだろうか?
それとも…
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