囚姫
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『お前も鉢屋か』
12歳の頃親にここに隠れろと言われ岩屋の奥で身を潜めてどれくらい時が過ぎたか解らない頃目の前にその男は現れた
緑の甲冑に円形の刀
『誰…』
『ほう…我を知らぬか。我が名は毛利元就』
この人は…尼子様の敵だ
とゆうことは私はこの人に殺されるのか…
短刀を握る手に冷たい大きな手が乗る
『我のところへ来い』
『…鉢屋は長年尼子様に仕えてきた。情報は漏らさない』
『そんなもの要らぬわ。来い』
『っ…は…離せっ』
腕を捕まれたまま岩屋から引っ張り出されれば外は目を疑う有り様になっていた
いつもは砂で埋め尽くされている月山富田城は血と死体の山。
焦土の様だった
『尼子様!!』
元就が指示すれば毛利の兵が尼子を押さえ付けながらこちらへ寄る
『尼子。何か言うことはあるか』
『瑠歌…お前は…どうやってでも生きろ』
『尼子様…』
『…だそうだ。もう良いな?』
元就は円刀を振り下ろす
赤い飛沫が自分の体を染めた
尼子の最後の命により自害も出来ず富田城で生まれ育った為外をあまり知らない瑠歌は元就に着いていくしか選択肢は無かった
『これをやろう』
『いらない』
『甘味は好きか』
『嫌い』
『何が好きだ』
『あんた以外』
こんなやり取りを毎日しつつもいつかは逃げ出そうと近くの林で鍛練を積む日々を送り、安芸で一年が経った頃、いきなり頬を叩かれた。
城の兵と数人仲良くなっていたが元就はそれを気に入らなかった様だ
『何故主の我の言うことを聞かない』
『…………』
『その目で我を見ないのであればいっそ閉じ込めてやろう』
憎しみの籠った目を向ければ元就は更に怒りを込めた低い声を出す
腕を掴まれたまま部屋の奥の壁を開き小部屋に投げ込まれ全てを失った
それから小部屋から出ることは許されず、ほぼ毎日体を求められ抵抗する術もなく許すしかなかった
求めれば求める程心を閉ざす瑠歌に元就は怒り、背中へ痣を作っていき、逃げ出さないよう足には枷がはめられた。
『なぜお前はいつも泣く』
ーそんなに我が嫌いか。憎いか
『わかりません』
ー親の、尼子様の仇に抵抗する術もない自分が腹立たしい。お前が憎いからだ
『我を好め。そうすれば楽になる』
もう何年も閉じ込められそれが正解なんだと思わざるを得なかった
確かに、毎回嫌だ嫌だと声を圧し殺し涙を流していたがこの人を好きだと思えばいくらか楽になるのかもしれない
いつもの様に元就はするだけすれば部屋を出ていく
目の前には以前元就が無理矢理渡してきた猫の人形
背中の縫い目をほどき薬を隠し入れておいたのは未だに気付かれていない様だ。
いつか殺そう。そう思っていたがそんな気力も無くなっていた
殺しても親にも皆にももう会えない
そう思いぎゅっと抱き締めれば再び壁が音を立てて開く。
しかしそこに居たのは見覚えのない男。
『俺の所へ来るか?』
差し出された手は大きくて暖かく、この裏表の無さそうな人間を信じてもいいかもしれないと思わせてくれた
四国へ渡る船の中、元親を観察すれば皆に慕われていることは一目瞭然で、元親も皆に応えようと自分なりに気配りをして大切にしているのが見てとれた
この人は毛利とは似ても似つかない。尼子様に似ている
この人なら仕えたい。そう思い元親を主とすることにした。
元親は自分の事を大切にしてくれて毛利の様に無理矢理求める事もない
何か役に立たなければと思い喜ばせようとしたがそれは好きな者とする物だと言う。
今まで見てきた男とは明らかに違い、不器用ではあるが元親は誠実だと実感した
喜ばせる方法は他にもあるとは言われたが元親が何をすれば喜ぶかはわからない。
潜入してきた忍を捕まえても苦い顔しかしない。
考えていると腹が空いたため炊事場へ行けば女中がにぎりを作っていた為教えて貰い、元親に毒を盛られるのを回避する為と作ってはみたが上手くはいかなかった。
しかし気まずそうな顔をしながらも食べて旨いと喜んでくれた。
それだけで充分嬉しかった
城下へ連れていかれ着物を選べと言われたが元親がいつも着る紫しか目に入らなかった
元親の色だから?元親に危険があれば変化して影武者になるため?
どちらかと言えば本心前者だが忍としての答えは後者。
元親は同じ色を選んだと喜んでくれた。
きっと他の方法で喜ばすとはこういうことなんだろう。
元親の笑顔や喜ぶ顔が見たい
忍としてか個人としてかはわからない。
しかし元親はいい国主だ。
尼子様の時のように自分の力不足で死なせたくない
この人に可愛がられて幸せだ