姫花忍

□06
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両親が自室に居るのを確認して物音を立てないように自分の部屋へ上がる。
いくら政宗が止血して冷やしてくれたからと言っても腫れが少し引いただけでまだ痛みは少しあるし、頬骨辺りは青くなっている。

「これ…ファンデで隠れるかな…」

まだ触ると痛い。

鏡をぼんやり眺めているとすぐ横に置いている携帯が緑のランプを着けていた。
不在着信を見てみると十件程度元親からのものだった。
メールを見てみればネックレスを忘れてる、と言うものと、電話に出ないけど大丈夫か、と心配するものだった。

心配してくれてたのに私は政宗とあんなことしてしまった。
正確には政宗にベッドへ押し込まれたのだがすぐ帰らなかった自分が悪い。

あの時政宗が言った『帰ってこい』とは何だったんだろう?
自分から別れると言ったのに。
政宗ならすぐに彼女だってできる。
彼女が欲しいからと言うわけでもないと思う。

あの日を思い出していると涙が頬を伝いはっとする

別れようと言われた時、ぽっかり胸に穴が開いたような感覚になった。
何か政宗に嫌われることをしたの?
他に好きな人ができたの?
私のこと嫌いになったの?
聞きたいことは沢山あっても言う勇気もない、目の前で泣いたりごねたりすれば余計嫌われるかもと怖くなり、急いで帰った。

運悪くその日は家に一人で、なにもしていなければ政宗のことを考えてしまう。
思いきり泣きたくても瞼を腫らして学校へ行けば皆は政宗が何かしたのかという話になり、悪者扱いされていまうかも。
とにかく泣かずに平気な顔をするのが『面倒臭ぇ』が口癖の政宗に対して出来る最大限の面倒臭くないこと。

明日、元親くんに何て言おう。
どう話そう。

『とりあえずでいいから』と頭を下げて必死で言う元親に対し、断りきれず付き合ったのが始まりだが政宗とは違い、思ったことを口に出してくれる元親は本当に解りやすくて話しやすくてとにかく優しい。
政宗はあーしろこーしろ、と命令口調だが元親はあっちがいい、こっちがいい、とあくまでも私の意見を尊重してくれる。
ご飯を作れば笑顔で美味しいと言ってくれて、事あるごとに可愛い、好き、と言ってくれて嬉しい。

でも何かが足りなくて、その足りない何かは何の事か自分でもわからない。

ただ、元親と肌を重ねた時はどこかで後ろめたさや後悔があった。
それなのに政宗の時はどこかで期待していて、もっと触って欲しいって思ってた。

「……私って…最低だよね」

鏡をみたままぽつりと呟く。

元親が優しいから、甘え過ぎてる。
政宗で埋まらない所を元親に求めて、元親で埋まらない所を政宗に期待してる。


「…鍋…忘れた…」
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