姫花忍
□06
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部屋へ戻るとベッドになだれ込む。
つい数時間前までここには桃花がいた。
もう無理だと言う甘い声さえ愛しくてやっと手に入れたんだと細い体に何度も俺のを突き立てた。
溢れ出る愛液と止まない切なく甘い嬌声に俺は繋がっていると思っていた。
繋がっていたのは体だけだったのか?
まだ政宗が好きなのか?
政宗と何してたんだ?
俺は政宗みたいに桃花のして欲しいことも好きなものも知らない。
それだけ二人には恋人以前に幼なじみと言う歴史がある。
『とりあえずでいいから付き合ってくれ』と言ったことに今更後悔する。
断るのが苦手な桃花に振られないよう保険を掛けたんだ。
あいつの優しさにつけ込んだ。
故意じゃないとはいえ、産まれて初めて女を殴ってしまった。
それも大事にしてきたつもりの桃花。
頬を押さえて痛みで泣く桃花に胸が締め付けられた。
泣かすつもりなんか無かった。
ましてや手を上げるなんて…
まだ感覚の残る右手をぼんやりと眺め、項垂れたまま出会った頃を思い出す。
一年の春、桜が散った頃だった。
『あ!あれ!ちょっと長宗我部の旦那!!』
いつも仲良くわいわい過ごす猿飛、真田、かすが、俺が教室に居ると猿飛が何か見つけた様でいきなり背中をばしばしと叩いてくる
『あ?何だよ』
猿飛の指差す先を皆で見てみるとそこには政宗。…とちょこちょこと追いかける小さな女。
『いつもの政宗ファンにしては何か雰囲気違うよね〜?』
『まさか…彼女か?』
『か…彼女とは破廉恥にござる!!』
『あれは伊達の幼なじみの桃花だ』
でもあんなにくっついてなかったような…と皆で首を傾げていると教室に政宗が廊下に立って何か話している。
隙間からちらりと見えるのは栗色のふわふわとした髪と小さな手。
『Ah?…何だよお前ら』
教室に入ると俺達の視線に気付いたのか怪訝そうな顔をする。
『旦那!あれ彼女??』
『まぁ……そんなもんだ』
少し濁した言い方をするがそれはきっとこいつの照れ隠しだ。
もっと大人な女がタイプだと思っていた俺達は心底驚いた
昼休みになって政宗が俺達の元へあの小さい女を連れてきた。
『初めまして、桃花です』
丁寧に頭を下げた桃花の声は透き通った甘い声でえへへ、と穏やかに緩く笑う桃花に俺は一瞬で惹かれた。
それからよく桃花を交えて遊ぶようになり、可愛くて仕方ないと思い続けていた。
ある日体育で教室に最後に残っていた俺は廊下へ出ると桃花が困った顔をして声を掛けてきた。
『あ、元親くん!』
『桃花…どうしたんだ?政宗ならもう体育館だぞ』
『え!そっか…英語の辞書貸してもらいたかったのに…』
そう残念そうに言う桃花にちょっと待ってろ、と言いほとんど使っていない英語の辞書を取り出して渡すと明るく微笑んでありがとうと言う。
その甘い声、笑顔、受け取る際俺の手に当たった細い指の感触に、射ぬかれたように鼓動が早くなる。
そうか、俺は桃花が好きなんだ。
確信したものの桃花は政宗の彼女だ。と想いをずっと燻らせていたがそうするほどどんどん好きと嫉妬が深まっていく。
それから程なく、辞書がないのも、何もないところで転けるのも、ただ抜けているのではなく政宗の事が好きな女からの嫌がらせと解る
しかしそいつらは政宗の見えないところでやるから守ってやれる筈の政宗は気付かない。
俺なら守ってやれるのに、と黒くどろりとした気持ちが生まれる。
『きゃあ!!』
階段を上がっているとすぐ上であの甘い声がして急いで駆けつけると階段から転げ落ちて膝を擦りむいていた。
『おい!大丈夫か?!』
『…転けちゃった』
明らかに誰かに後ろから押されたに決まっているのにえへへ、とまた緩く笑う桃花に胸がちくりと痛む。
『消毒しねぇとな。』
よたよたと歩く桃花に肩を貸し、保健室へ向かう。