姫花忍

□05
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数ヵ月ぶりに来たこの部屋は以前と比べて散らかっていた

灰皿には吸い殻がたまり、ソファーには乾いた物か使ったものか解らないタオルやTシャツが無造作に投げられている

「政宗…くん」

静まり返る部屋で名前を呼ぶとベッドがもぞもぞと動く

「…Ah?何してんだお前」

ふかふかな布団から頭を出して鼻が詰まった様な声で言う

「あの…ご飯と…薬…」

「…寒みぃ」

気だるそうに起き上がった政宗はパンツ一枚だけしかはいていなくてそんなことを言う。
体温計を渡して風邪薬を出して準備しているとテーブルの下にあるコードに目が止まる

「…水持ってきてくれ」

「うん」

はっとして直ぐに一階のキッチンへ降りて冷蔵庫を開けると水のボトルの横にいちごオレがある。
さっきの部屋に置いてあったピンクの充電器。
食器棚に目を向けると自分用にとおいてある食器が変わらず置かれている。
隣のお風呂場へ行くと洗面台には自分が使うからと置いてあった歯ブラシやタオルがそのままだった。

水を持って上がると変わらずパンツしか掃いていない政宗はのろのろと小さい土鍋の雑炊を口に運んでいた。

「…thankyou」

無言で水を手渡すと指が一瞬触れ、熱があるのか熱い指にびくりと震えそうになる

「楽しかったか?」

「…え?何が?」

主語の無い言葉に首を傾げると少し自嘲したような顔をする

「元親んち泊まったんだろ?」

「あ……うん…」

「何だよその反応」

昨日、気付いた。
元親がその顔がいい、その顔そそる等言う時や、肌を重ねた時に達した時、私は政宗くんの事を考えていた。

「うぅっ」

突然顔にタオルが投げつけられ変な声が出る

「泣くなよ」

「へ?」

気付けば泣いていた様だ。

「…このタオル生乾きの臭いがする…」

「…shut up」



「言えよ」

「…嫌」

先程から数回このやり取りをしている。
目が腫れたかもと思い、泣き止んでもタオルを顔から離さないでいると、タオルを引っ張って剥がそうとしながら元親くんと何があったのか聞いてくる。
本当に言いたくないのに…

「何だよ。なんで俺に言えねぇんだよ!」

「もう政宗くんにこれ以上嫌われたくないもん!」

強く言う政宗の声に触発されたようについ口から言葉が出てしまった。

「…これ以上?」

タオルが剥ぎ取られた顔は止まっていた筈の涙がまた零れ出す。
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