姫花忍

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よいしょっと言いながら狭い席と席の間を教科書やノートが大量に入った重い紙袋をよたよたしながら進んできた

スカートが短い為転けたりつまずいたりしたら見えるんじゃないかとハラハラして見ていると紙袋にばかり気を取られて反対の手に持っていた鞄に着いている定期入れが前の座席に座る元親のイスに引っ掛かり慌てている

相変わらず…抜けてるな

「あ、元親くんごめんね」

えへへ、と笑う桃花に元親も優しく笑みを返す

別れていなければ、その荷物だって家からここまで運んでやったしそんな転けそうにならなくても席まで持ってやるのに

不毛だ…

隣の席にやっと到着すると鞄を置いて一息ついている
こっち見る気ねぇな…

別れを切り出した昨日。
本当は少しくらい嫌だとごねて泣くかと思った
今日だって泣き晴らした顔をしているかと思えばいつも通り

俺はあいつの心に波風立てる存在でもねぇのか?





始業式も終わりホームルームを気だるくぼんやり聞いていると左斜め前、桃花の前の座席に座る元親からメールが入る


『お前がもう桃花いらねぇなら俺が貰うぞ?』


顔が強張り眉間に皺が寄る

しかし…あいつが何も反応ねぇのは俺に気持ちが無かったからだろ?
なら…あいつにとって長宗我部の方が良いのかも知れない

俺は長宗我部以下か…?

ちらりと桃花を見ると両手で頬杖をつき、足を前に伸ばして足先をぱたぱた動かして担任の長い話を聞き流している

視界に入る元親を見るとこちらを少し振り返りにやりと笑う


確かに長宗我部は俺より優しいと思う
この危なっかしい桃花を預けるなら長宗我部が適任か?

いやしかし………

ぐるぐると頭を駆け巡る自分本位の考えと桃花本位の考えに葛藤しているとまたメールが入る

『大事にするから安心しな』

『桃花がいいならいい。』


そもそも別れ話を切り出したのは俺だ。
その癖こいつの恋愛事情をとやかく言う筋合いはない

元親を見れば俺にだけ見えるようにぐっと親指を立てている
殺すぞ………


やっと長いホームルームが終わり、やっと帰れる。と息をつくと聞きたくない話が聞こえてきた

「桃花、どっか行こうぜ」

こちらに体を向けるように座り桃花の机に肘をつく

「…え?どっか??」

迷っている桃花を見かね、荷物を持って席を立つ

いつもは俺がしつこいくらい
男と遊ぶな、必要以上喋るな、帰るときは俺以外と帰るな等、口癖のように言っていた
きっと隣に俺が居れば行きたくてもうんとは言えねぇ



はぁ、と息を吐いて時間潰しに買ったコーヒーを一気に喉へ流し込み自転車置き場へ行くと元親のでかいバイクに桃花が乗っていた

エンジン音がうるさく、くっつきそうな程顔を近づけて話をしている

元親の腹に腕を回すとバイクが走り出す


手離したの俺だ

いつも従順すぎる桃花が俺のことを本当に好きか確かめたかっただけだった

昨日、嫌だとか、少しでも泣いたりすれば嘘だ、と笑ってからかって終わりのつもりだった

しかしあいつはけろりとして
わかった。と残し部屋を出ていった


全て試そうなんて思った俺の罪だ
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