姫花忍

□06
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声のする方に顔を向けるとやはり立っていたのは元親。

「メールも電話も返事がねぇから来てみれば…何やってんだよ」

その声はいつもみたいな明るい声とは違い、低く地響きの様な声で背筋がぞくりとする

「Ah?何って見たまんまだろ」

元親はいつも見せる笑顔とは全く違い、こちらを睨み付けていてこれこそ鬼の形相と言うやつだ。

「歯ぁ食いしばれよ!」

「…っだめ!」

唸るような声に制止を掛けたが止まらず、例えようのない鈍い音がする

「おま…何で…」

「何やってんだ!!」

拳を振りかぶった元親を見て咄嗟に政宗を庇うように前へ出て、元親は目を丸くして力を緩めたが間に合わず左頬に拳が当たる。
痛みにうずくまると口の中に鉄臭い血の味が広がる。

「っ……っ……」

痛くて涙が出て声にならない。

「とりあえず口洗うぞ!」

政宗に軽々と抱き上げられ、急いで洗面所へ連れて来られて口を濯ぐよう言われたが何度濯いでも血の味は変わらない。

「…元親。」

「…何だよ」

もう一度玄関へ戻るとばつが悪そうな顔をしている。

「折角手にいれたとこ悪ぃがこれから返してもらうからな」

とりあえず明日話すから帰れ、と言うと元親は謝りの言葉を託けて帰っていく。



バイクの音が遠退く。
左頬がじりじりと痛み、まだ涙が止まらない。
でも…これは痛みだけじゃない。

「…血、止まったか?」

頭を小さく左右に振ると政宗は小さく溜め息をついて左頬が少し張るほど脱脂綿を詰めて外側から氷水で冷やしてくれる

「何で前に出たんだよ」

「ふはひひへんは…」

「日本語喋れ」

少しダイニングを見回してメモ帳へすらすらと文字を書く

『元親くんとケンカしてほしくなかった』

「Ah?彼氏が返り討ちにされるのがみたくねぇってことか?」

頭を左右に振ってまたメモ帳へ文字を書いて見せると政宗は一瞬眉間にシワを寄せた

『政宗くんが殴られたらケンカになるけど私だったら終わるでしょ?前みたいに』

そう。こんなことは以前もあった。
階段から落ちたと聞いて保健室へ行くと制服の胸元をはだけさせ泣くのを我慢しているが目には今にもこぼれそうなほど涙を貯めた桃花と悪かったとすまなそうに謝る元親がいた。
俺は桃花に何かしたのかと勘違いし、元親に殴りかかったが制止する桃花は元親を庇うように目の前に飛び出し、ぎりぎりのところで拳を止めた。


「前とは事情が違うだろ。あん時は元親の消毒の仕方が悪くて泣いてるのを俺が勘違いしただけだ」

『でも政宗くんケガするのは見たくない』

「hmm…偉そうに言うなよ馬鹿」

「んんーーー!!」

左頬に添えるだけだった氷水の袋をぐりぐりと当てられ激痛に余計ぼろぼろと涙が出る

「お前は隙が有りすぎる上お人好し過ぎんだ。もう少し上手く立ち回れよ」

『上手く立ち回れなくても私がしようと思ったことしてるからいいの』

「だから馬鹿って言ってんだ」

元親と付き合って陰湿なイジメにあってるのだって誰かに言えばいいのに自分が何か怒らせたのかもしれないからと一人で抱え込む。
勉強は出来るが優しすぎて不器用なのは昔から変わっていない。

だから…余計に目が離せない。

まだ時折ぽろぽろと涙の溢れる目元を親指で拭うとまた紙に何か書いている。

『えっちいことしたらダメ』

「じゃあ一人でのこのこ男の所に来んじゃねぇ」

先程部屋での顔とは違い、小さく笑う政宗は穏やかだった。


『政宗くんは男だけど幼なじみだよ』
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