姫花忍

□05
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朝まで降り続いた雨はやっと止み、夜勤だった母親が確実に帰っている昼前と、元親に送ってもらった

「ちゃんと寝ろよ?」

「送ってくれてありがと」

黒いヘルメットを外して手渡すと頭を撫でられ大きな音を立てて去っていくバイクを見送る

泊まらなきゃよかった…気がする

今は元親の彼女だ。自分から別れを切り出した政宗に後ろめたい気持ちなんておかしい。

隣の政宗の家を見上げるとまだ寝ているのか遮光カーテンが閉まったままだ

「…ただいま」

母親は寝ている時間。返事なんかないのに何となく出てしまう

「お!桃花お帰り!」

「…え……………父さん?!」

笑顔でリビングから出てきたのは単身赴任の筈の父親。

「ちょっと本社でやることあってね〜、少しだけど帰って来たんだ」

「へぇ…いそがしいんだね…」

少しだけ太った気がする。
単身赴任だからやっぱり惣菜やラーメンが多くなるのかな

「ご飯は?」

「母さんと済ませた。それより政宗くん大丈夫なのか?」

なんの事か解らず首を傾げると目の前のソファーに深々と腰を掛けた父親は言う

「昨日雨の中練習して風邪引いたって聞いたんだ。ご飯と薬持って行ってあげなさい」

「…私が?」

「彼女だろ?」

そうだ。別れたことはまだ親には言ってない。
母親は喧嘩でもしたんだろうと思っているようで突っ込んで聞いてこないからそのままにしていた

「仲直りするいい機会だろ?」

…言えない。
親同士が幼馴染みで大親友で、息子同然に思っている政宗くんと付き合い始めた時だって大喜びだったのに別れたなんて言ったら久々に我が家を満喫している父親は泣いて寝込んでしまうだろう

「……………わかったよ。でも私課題あるから直ぐ帰るからね」



薬箱から風邪薬、冷蔵庫からスポーツドリンクと保冷枕を取り出して袋に詰めて、政宗くん用に避けてある雑炊を器に移してスプーンを乗せて準備をすると渋々隣の家へ向かう。

玄関でお盆と袋渡したら帰る。玄関でお盆と袋渡したら帰る。玄関でお盆と袋渡したら帰る。

あたまの中で何度も繰り返しながらインターホンを鳴らすが一向にでる気配がない。

ドアノブを引いてみると鍵が掛かっておらず、がちゃりと音を立てて開く

「…いないのかな?」

食卓においておこうかと思い中へ入ると玄関にはぐっしょりと濡れた靴が無造作に脱ぎ捨てられ、階段へ向かう廊下にはまだ濡れている学生服や靴下が脱ぎ捨てられ、本人が辿ったルートがわかるようになっていた。

服が点々と脱ぎ捨てられているルートを辿れば彼の部屋だ。

「は…はいるよ」

数ヵ月ぶりに入る部屋に緊張しつつドアを開く。
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